2023-12-04 20:00

田村潔司「解析UWF」最終回…Uの真髄を共に追い求めた桜庭和志

1996年5月27日、日本武道館で行われたUインターの田村潔司vs桜庭和志。この試合をもって田村はUインターを去った
1996年5月27日、日本武道館で行われたUインターの田村潔司vs桜庭和志。この試合をもって田村はUインターを去った
写真提供=平工幸雄
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田村潔司がUWFを読み解く本連載も今号をもって最終回を迎えた。田村が最後に語るのは、かつては同じ釜の飯を囲んだ後輩であり、Uインター時代にはUの真髄を共に追い求めた桜庭和志についてだ。長年にわたる因縁の相手に今何を思うのか。UWFに懸けた一人の男のラストメッセージ。

2002年2月24日に行われた『PRIDE・19』(さいたまスーパーアリーナ)で、ボクはPRIDEに初参戦した。対戦相手は、当時のPRIDEミドル級王者ヴァンダレイ・シウバ。

PRIDEでの田村潔司というと、桜庭和志との関係を真っ先に思い浮かべる人も多いかもしれないけれど、初参戦が決まった時点で、ボクは将来PRIDEでサク(桜庭)と対戦することは、まったくと言っていいほど考えていなかった。これは本当のことで、PRIDEとは1試合ごとの契約だったので先のことは考えていなかったし、当初はPRIDE自体に対する警戒感もあった。

あの頃のPRIDEはプロレスラーを次々とリングに上げることで大きくなっていったけれど、悪い言い方をすれば、プロレスラーを食い物にして、使い捨てしているようなところがあった。勝てなかったレスラーが悪いといえばそうなのだけれど、当時リングスを退団してフリーになったばかりのボクは、かなり慎重になっていたことはたしかだ。

また「食い物にされかねない」という警戒心だけでなく、まだPRIDE側とは信頼関係がまったく構築できていない状態だったので、とにかく決まった試合に集中して、先のことはまったく考えないようにしていたように記憶している。

あとはボクがUインターを退団して以降、髙田(延彦)さんと関係があまり良くなかったので、PRIDEに上がっても髙田道場の選手と関わることはないだろうなとも思っていた。それもあって桜庭戦というのは本当に頭になかったのだ。

もう一つ大前提として、やってる側である選手は他の選手のことをそこまで意識してないし深く考えてもいないということもある。今、PRIDE初参戦時から20年以上の時が経ち、この年齢になって当時の自分たちのことを客観的に振り返れば、同じ元Uインター同士で、それまで別々の舞台で活躍していた田村と桜庭が闘えばおもしろいだろうなとは思う。もっと言えば、当時のPRIDEとリングスの敵対に近いライバル関係だったり、「Uインター時代は後輩の桜庭が先輩の田村を嫌っていた」みたいな話だったり、マスコミが対戦を煽れる要素もいろいろあったんだろう。

でも、それはファンやマスコミや関係者の興味であって、我々やる側にとっては関係のないこと。こっちが考えてるのは、日々の練習でどうやって自分を高めていくかっていうことや、目の前の対戦相手のこと。やるかやらないかわからないような選手のことを考えている余裕なんてない。それはおそらくサクだって同じで、周りがいくら騒いでも自分の練習や次の試合に集中していたと思う。

ただ、桜庭の場合は元Uインターで同じ釜の飯を食った仲で、知らない関係じゃないので、もちろん他の選手よりは気になる存在であったのは確かだ。

髙田さんがヒクソン・グレイシーに負けたあと、UFC JAPAN(97年12月21日)で、柔術黒帯のマーカス・コナンという選手に勝って「プロレス界の救世主」と呼ばれたり。PRIDEでグレイシー一族の選手をはじめ、いろんな強い選手に勝っていったときは、その報道を見るたびに「がんばってるんだな」と思っていた。でも、それは自分とは関係ない別の世界で「がんばってるんだな」という感覚だった。

同じ土俵にいれば当然サクのことを意識していたと思うけれど、大きい意味では同じ業界でも、団体やプロモーションが違うとルールも何も違って別世界。リングスはリングスでやってるし、パンクラスはパンクラス、PRIDEはPRIDEで独自にやっていたから、生きる世界が別みたいな感じだった。だからサクに対してアレルギーもなかったし、雑誌で活躍する姿を見て、「あっ、桜庭和志だ。がんばってるな」と思うくらい。それは髙田さんや船木誠勝さん、鈴木みのるさんに対してもそうだけど、遠い存在になったという感覚があった。

俺はリングスのメインイベンター、トップを張ってるから、大事なのは当然リングスの闘いであり、リングスのスタイル。PRIDEはPRIDEで盛り上がってくれればいいから、サクの活躍が騒がれても、自分と比べることはあまりなかった。

もちろん、リングスとPRIDEはライバル関係にあったから、そういった意味で意識する部分は存在した。当時、PRIDEは飛ぶ鳥を落とす勢いで、リングスとPRIDEとではマスコミの数が全然違ったし、マスコミの数が違うということは、報道される量も違った。いわば昭和のプロ野球のセ・リーグとパ・リーグみたいなもので。パ・リーグには実力があるいい選手がたくさんいるんだけど、報道される量は圧倒的にセ・リーグのほうが多い感じ。

そこは“パ・リーグのエース”だった田村としては、メディアに大きく報じられる“セ・リーグのスター”桜庭和志に対して、「あれはあれで大変だろうな」と思いつつも、ちょっとした嫉妬みたいなものはあった。でも、元後輩のサクがPRIDEで持て囃されるなら、余計に「俺は自分のやっていること、自分のスタイルを貫き通すんだ」という意識が、逆に強くなった気もする。

それでも本当の意味でサクに対して嫉妬したり、彼の活躍を見て悔しく思ったりしなかったのは、「俺は桜庭に3連勝、実質2連勝している」みたいな感覚もどこかであったからかもしれない。

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取材・文=堀江ガンツ

田村潔司たむら きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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表紙
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巻頭特集
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・高本彩花(日向坂46)グラビア&インタビュー
「Sugar&Spice」

・濱岸ひより(日向坂46)インタビュー
「サヨナラの笑顔を」

・松田好花(日向坂46)インタビュー
「募る思いをマイクに乗せて──」

グラビア・インタビュー特集
・インタビュー連載 23人の空模様
vol.04 工藤唯愛(僕が見たかった青空)
「道産子14歳の素顔」

・石橋颯×竹本くるみ(HKT48) インタビュー
「空も飛べるはず」

・田中美久(HKT48) インタビュー
「わがアイドル人生に悔いなし」

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「She’s lovin it」

グラビア&スペシャル企画
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スペシャル記事
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第十二回 曽我部恵一
「中2の時の自分にとって誠実かどうか」

・伊賀大介×プロ野球死亡遊戯(中溝康隆)×生田登
スペシャル野球座談会「阿部慎之助監督で“盟主”復活となるのか!?」

・『Rの異常な愛情』特別インタビュー
LITTLE×R-指定
「踏みたりないふたり」前編

・田村潔司連載
「解析UWF」最終回

BUBKAレポート
・Book Return
第61回 森合正範
「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」

・すべての球団は消耗品であるbyプロ野球死亡遊戯
#14「1979年の広岡ヤクルト」

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