すべての球団は消耗品である「#12 1998年の近藤ロッテ編」byプロ野球死亡遊戯
勝っても、負けても、いつの時代もプロ野球球団はファンに猛スピードで消費されていく。黄金時代、暗黒期、泥沼から抜け出せない低迷期。ファンは、そして僕たちはいい時も悪いときもそんな刹那の瞬間に快楽を求めているのかもしれない。
球史にその名を残した歴史的な大連敗の顛末
1998年夏、灼熱のタイで「長嶋茂雄、丸刈り事件」を知った。
アユタヤというビーチに向かう電車の中で、日本人の会社員風の男が持つスポーツ新聞と、こっちの『はじめの一歩』を物々交換したのである。甲子園で判定に不満を持ったガルベスが審判にボールを投げつける暴挙に出て、その責任を取りミスターが頭を丸めたのだという。
当時、猿岩石やドロンズが『進め!電波少年』でヒッチハイクの旅をした直後で、日本人バックパッカーもやたらと多かった。とか言ってる19歳の俺もイージーにブームに乗って、格安航空チケットを買い、機内映画で字幕なしの映画『タイタニック』を眺め、バンコクのカオサン通りを徘徊した。
「そのあとはオクラホマへ行き、フットボールを勉強した。名選手といわれる人と押し比べをしたが、二人がかりでもぼくを押し切れなかった」と例によってわけの分からない力自慢を口走る懐かしの元横綱・双羽黒こと北尾光司は置いといて、タイで見たなによりも、遠く異国の地で聞く「ミスターの丸刈り」にワクワクした。マジで早く日本へ帰ろうと思った。俺には、アユタヤよりもナガシマだ。そんなG党のガキを見て、日本人の会社員は、こう言ったのだった。
「パ・リーグも見る? ロッテが記録的連敗したらしいよ」
あの夏、近藤昭仁監督率いる千葉ロッテマリーンズは凄まじい勢いで負けまくった。なにせ、プロ野球新記録の18連敗だ。前年の97年シーズンは最下位に終わり、捲土重来を期して船出した2年目の近藤ロッテのオフは、妙にほのぼのとしたものだった。
東京・錦糸町のロッテプラザで500人のファンと一緒に楽しむ大忘年会では、抽選で選ばれた女性ファンがウエディングドレス姿となり、新郎役の若手選手たちとキャンドルサービスやケーキカットをしてまわる謎の模擬結婚式を敢行(一部選手は私生活の本妻にバレたらシャレにならないとマジで辞退)。新人合同自主トレでは、ドラフト7位白鳥正樹投手が鼻血をブーッするハプニング。下半身強化のため相撲部屋で稽古に参加した池野昌之は、「股が裂けてしまった」と魂じゃなくてキ○○マのギブアップ……って野球とは1秒も関係ない話題が続くが、97年のロッテは12球団最低の75本塁打という超貧打に泣かされ、その救世主として年俸2億6000万円をぶっこんで、公称37歳のフリオ・フランコを3年ぶりにメジャーから呼び寄せた。
アリゾナ州ピオリアのキャンプ地で合流した球界初の外国人主将フランコは、「オレは日本でやり残した仕事がある。それに決着をつけるために、マリーンズに戻ってきたんだ」と『週刊ベースボール』で堂々のV宣言。と思ったら、ボスの近藤監督は「去年は頑張ったが、やっぱり最下位だった。今年? 5位だろ」なんて糞ぶっかける一言。
ちなみに海外キャンプで選手たちは、プレステの『みんなのゴルフ』にハマり、右ヒジの手術をしたばかりの成本年秀は「結構、指を使うので、いいリハビリにもなるんだ」なんつって前を向いた。ってあれ? 最下位チームが毎日ユルユルの雰囲気で大丈夫かと心配にもなるが、メジャーで首位打者経験のある大物フランコのことばかりを報道陣から聞かれる同僚助っ人キャリオンは、「そんなにフランコのことを知りたかったら、直接彼に聞けばいいじゃないか」とオレはアイツのかませ犬じゃないぞ的に不満タラタラ。開幕直前の3月29日には、新守護神候補のデービソンが来日。秘密兵器とあって、近藤監督はテレビカメラがブルペンに入るのも拒否、写真撮影もNGのピリピリモードだったが、右肩に爆弾を抱えているマジもんの秘密が露呈するのはこの少しあとのことだ。
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中溝康隆=なかみぞ やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)など著書多数。『プロ野球新世紀末ブルース 平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中!
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