すべての球団は消耗品である「#7 1979年の堤ライオンズ編」byプロ野球死亡遊戯
勝っても、負けても、いつの時代もプロ野球球団はファンに猛スピードで消費されていく。黄金時代、暗黒期、泥沼から抜け出せない低迷期。ファンは、そして僕たちはいい時も悪いときもそんな刹那の瞬間に快楽を求めているのかもしれない。
常勝レオは爆弾男とともに
あの頃、強いチームと言えば、西武ライオンズだった。
V9の巨人に間に合わなかった団塊ジュニア以降の世代にとって、“最強”と言えば80年代中盤から90年代中盤にかけて黄金時代を爆走したレオ軍団である。85年からの10シーズンで9度のリーグ優勝と6度の日本一。弱い西武を知らない子どもたちは、「楽しみは、家へ帰って冷蔵庫をあけて飲む冷えたビール。……やけど、オレは19歳」なんつって唐突に武勇伝を語る近鉄のごっついビッグワンこと鈴木啓示よりも、スマートで洗練されたライオンズブルーに憧れた。
だが、西武球団の始まりは決して歓迎ばかりではなかった。西鉄ライオンズ時代から熱狂的なファンを持つチームは、すでにクラウンライターライオンズと名を変えていたが、当初は福岡から地元の誇りが出て行くなんてタチの悪い冗談だった。1978(昭和53)年10月6日、北九州市発行の新聞で「ライオンズ、博多を去る」「西武系グループの会社に買収される」と大きく報じられた際も、「そんなバカなことはありっこない」という冷ややかな反応ばかり。だが、西武は怖いくらいにガチだった。その年、埼玉の所沢で西武園球場に変わる新球場建設をぶち上げた西武グループの球界進出を予想する声は多く、『週刊文春』78年2月9日号には「川上球団社長、王監督の大構想『第二巨人軍』創設に乗り出した堤義明の野望」というむちゃくちゃなスケールの特集記事が掲載されているし、同時期の『週刊ベースボール』でも「チーム名は西武ドジャース?」でセ・リーグ8球団制を画策かと報じている。なお、過去には西武の大リーグのサンフランシスコ・ジャイアンツ買収計画も噂された。
そして、78年10月12日正午、NHKニュースが西武ライオンズの誕生を告げる。13億円での買収から3週間後の11月2日には、プリンスホテル硬式野球部の発足を発表。石毛宏典や中尾孝義らアマ球界の有力選手たちを立て続けに入部させた。西武グループ全体の関連会社は180社、従業員約8万人。西武鉄道だけをとっても資本金144億4000万円という圧倒的な財力を誇り、プロ・アマ同時に殴り込みをかけた黒船を他球団は警戒した。堤オーナーは横浜スタジアムの建設にも関わっており、野球協約で複数球団の株所有は禁じられているため大洋球団の株をニッポン放送やTBSへ売却。当時44歳の“若き爆弾男”と恐れられた経営者は、のちのライブドア堀江貴文……いや、それ以上の得体の知れない悪役でもあった。
前年のドラフト会議で、クラウンライターが捨て身で1位指名するも予想通り入団拒否されていたアメリカ野球留学中の江川卓に対して堤は、「西武がライオンズを買えば、江川がとれると。来ない理由はないと思いますよ」とオーナー会議で江川と交渉しない口約束が交わされたことをきっぱりと否定。『サンデー毎日』の直撃インタビューでは、「野球をビジネスとしては考えるが、ゲームとしてはどこがおもしろいのかよくわかりませんね。自分でもやらないし、球場へ行くにしても車は混んでいるし、駐車する場所もない。楽しみということなら他にもっとありますからね」なんて愛と幻想のプロ野球を秒殺。球団買収直後の『週刊文春』独占インタビューでも、「私としては、個人的にかなわない。球団をもったことで、とても仕事にならないんですよ。邪魔です。これは、マスコミ公害じゃないかな。インタビューは申し込まれる。断われば悪く書かれる。スケジュールが埋まっちゃってこの一週間くらい仕事にならないですよ」なんつって自分で買っときながら野球は邪魔だと逆ギレしてみせるツツミモン。
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中溝 康隆=なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)など著書多数。『プロ野球新世紀末ブルース 平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中!
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