田村潔司「解析UWF」第5回…長期欠場中に気づいた山崎一夫さんのうまさ
田村潔司が偉大なる先人たちに学んだことは、リング上での戦い方だけではない。団体のためにトップの座を明け渡し、相手を輝かせることで魅せた山崎一夫。全てを抱えるイベンターとして、自らを犠牲に興行を成功に導いた髙田延彦。田村の目に映る先輩たちは、試合に勝つことそれ以上に大きな重圧を背負い、日々鍛錬を積んでいたのだ。真の強さとはいったい何か、語っていただいた。
1989年10月25日、新生UWFの北海道・札幌中島体育センター大会。腕を骨折し欠場した船木誠勝さんの代わりに、まだデビュー半年、5戦目でペーペーの若手だったボクが、UWFの大エースだった前田日明さんと対戦した。捨て身で向かっていったが、首相撲でつかまり顔面に何発もヒザ蹴りを入れられてKO負けの惨敗。眼窩底骨折の重傷を負い、結局、401日(1年1カ月)の長期欠場を強いられることとなった。
デビューしたばかりで試合ができない、練習も満足にできない空白期間ができたことで、当時はすごく焦りを感じたけど、結果として欠場していた1年1カ月の間、自分にとって大きな収穫があった。
それは欠場中、UWFすべての興行の第1試合からメインイベントまで全試合をセコンドとして観させてもらったことで、たくさん気づきがあり、プロとしてものすごく勉強になったこと。これは後輩のカッキー(垣原賢人)や冨宅(飛駈)も経験していないボクだけの財産であり、あの1年1カ月の欠場期間なくして、のちの田村潔司はなかったと思っている。
同じ試合を観るにしても、映像で観るのとセコンドとしてリングサイドでマットにへばりついて観るのとではまったく違う。至近距離で観ていると、細かな技術だけでなく、観客にはわからない攻防や、先輩たちの感情や何を考えているのかまで伝わってきた。また、自分の背後にはお客さんがいて歓声が聞こえるので、どの動きをしたらお客さんが沸いているのかが、背中越しにダイレクトに感じられた。
ボクはデビュー前、髙田延彦さんから「お客さんに伝わるようにしろ」というアドバイスをいただいたことは以前書いたけど、リングサイドで観客の歓声を背中で感じながら試合を観ることで、どうすればお客さんに響くのか、どうやってしまったら響かないのかが、なんとなく肌感覚でわかるようになってきた。
例えば、関節技を仕掛けられてロープに逃げる動きひとつ取っても、ただ手を伸ばしてエスケープするだけではお客さんに伝わらない。逃げるのにもお客さんに伝わる逃げ方がある。別にオーバーアクションをしろというわけじゃなくて、逃げる動きや、その時の苦しい表情、焦りの表情、無様な表情など、場面場面でいろんなものをお客さんの感情に当てはめていく必要がある。地味と言われる関節技の攻防で、なぜUWFの選手たちはお客さんを沸かせることができたのかといえば、単に関節技を極める技術だけでなく、そういった“プロとしての技術”も持ちあわせていたからなのだ。
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