すべての球団は消耗品である「#3 1999年の野村阪神編」byプロ野球死亡遊戯
勝っても、負けても、いつの時代もプロ野球球団はファンに猛スピードで消費されていく。黄金時代、暗黒期、泥沼から抜け出せない低迷期。ファンは、そして僕たちはいい時も悪いときもそんな刹那の瞬間に快楽を求めているのかもしれない。
大阪をあげての“フェス”
「あかんわ、打てる気せえへんもん」「4番ちゃうな。あんなオープンスタンスじゃタマ飛ばへんやろ」
1999(平成11)年春、大阪の地下鉄・御堂筋線の車内では、2人組の熟女がなにやら深刻な顔で話し合っていた。趣味がゴルフなのかな……と思ったら、TBSドラマ『魔女の条件』の松嶋菜々子の服装を意識したけど雰囲気はどう見てもハイヒールモモコ風の淑女はこう言った。「迫力不足やわー、ブロワーズ」と。一瞬「ファック、ブラ外れたわー」に聞こえて激しく動揺したが、どうやら阪神タイガースの助っ人マイク・ブロワーズについて語り合っているようだった。……ってそんなことある? 前年、大学に通うため埼玉から大阪に出てきた俺はテレビじゃ見られない浪速の街のリアルに圧倒された。宇多田ヒカルのアルバム『First Love』が爆発的に売れた99年春、MDウォークマンで椎名林檎の『無罪モラトリアム』が鳴り響いていたあの頃、関西は未曾有の阪神フィーバー、いや野村フィーバーで毎日がノムさんフェス状態だった。
なにせ前年までヤクルトの監督を務めていた名将・野村克也が、このシーズンから同リーグの阪神タイガース監督に電撃就任したのである。契約金2億円、年俸2億円の3年契約という異例の好待遇には、獲得を指示した阪神の久万俊二郎オーナーでさえ「な、なんじゃあこれは。あんたらが決めたんか。この金でオーナー何人雇えるんや」なんてドン引きしたが、それだけ阪神は本気で変わろうとしていたのだ。
前年は85年の優勝以降、13年間で7度目の最下位。吉田義男監督は「紙一重の勝負どころで負けることが多かった」なんつってエクスキューズをかましたが、打率、本塁打、得点すべてが12球団ぶっちぎりワーストの大惨敗である。そんなダメ虎を救うのはカリスマ指揮官ノムさんしかいない! あかん優勝してしまうなんて虎党は開幕前から異様に盛り上がり、2月の安芸キャンプ初日には取材陣260人が集結。上空には新聞各社のヘリコプターが飛んだが、野村監督は発熱でダウン。同じく高知でキャンプを張る西武のゴールデンルーキー松坂大輔に主役の座を奪われたが、3日目からマスクをつけての再降臨。
スタンドでは「サッチーよ~ん。主人が風邪で迷惑かけてすいません」と野村沙知代夫人が謝り……と思ったら、よく見るとダチョウ倶楽部の上島竜兵が変装したニセサッチーで「ほう、あいつも見舞いにきてくれたんだな」と感激していたノムさんも大激怒。ブルペンでは新庄剛志が外野と投手の二刀流挑戦をぶち上げ剛速球を投げ込むまさにカオス。『週刊ポスト』でカネヤンが巨人グアムキャンプの長嶋茂雄監督を直撃すると、ミスターは「新庄が外野からピッチャーにコンバット!?」と驚き、読者は「それコンバットじゃなくコンバートなんじゃ」と突っ込んだ。
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中溝康隆=なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)など著書多数。『プロ野球新世紀末ブルース平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中!
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