2022-10-07 18:00

西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第12回】

西武ライオンズの清原和博を知っているか?

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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1986年⑥
新しき世界

86年10月27日の日本シリーズ第8戦は新時代の到来を予感させる内容になる。勝利投手はビールかけで「六本木に遊びに行きたい!」なんつって笑った渡辺久信。セーブを挙げMVPに輝いたのは工藤公康。秋山幸二は6回の同点2ランで初めてバク宙ホームインを披露したが、直前のプレーで二塁への猛烈なスライディングをかまし、ショート高橋慶彦の足元をすくいゲッツーを阻止したのは背番号3だった。ある意味、シリーズの勝敗を分けた神走塁。常勝PLで育った男は19歳にして勝つ術を知り尽くしていたのだ。その4番清原は最後も猛打賞でシリーズ打率.355をマーク、11安打はもちろん新人最多記録で優秀選手賞に選ばれる。のちに森監督は嬉しそうに試合後の出来事を振り返っている。「日本シリーズで広島カープを倒し、日本一に輝いたとき、清原は選手の使者として私の自宅を訪ね、銀座の祝賀会場に案内してくれた。私は彼のやさしい気配りに感激した」と。

V旅行では左肩に白いゴルフバッグをかけ、右手にルイ・ヴィトンのボストンバッグを持ちハワイへ上陸。一緒に写真を撮ってほしいと頻繁に声をかけてくるハネムーン中のカップルや日系ギャルから逃げつつ、帽子、ポロシャツ、短パン、ソックス、すべて赤という謎のファッションで人生初ゴルフにも挑戦した。夜のガーデンパーティでは、壇上に上げられた新婚の秋山にキヨマーが芸能レポーター風に迫り、「秋山さんは、いつもインタビューされるとアーとかウーとかしかいわへんけど、ここではっきりと奥さんを『愛している』と言ってください」と無茶ぶり。工藤や渡辺は再婚した森監督をつかまえ、「新婚なら、カントクもそうだ。上がってくださいよ、カントク、カントクってば!」なんて元巨人V9戦士に対しても臆することはない。

新しい価値観で生きる男たちは球界の常識や流れを変えた。ユーキャン新語・流行語大賞では“新人類”が金賞に選ばれ、若者の代表として清原、渡辺、工藤の三人が表彰式に出席する。そして、ファミコン野球ゲームの金字塔『プロ野球ファミリースタジアム』の記念すべき第一作目が発売された12月10日、清原は人生初の契約更改に臨む。推定600万円から2200万円へ約3・5倍増の大幅アップ。高校卒業して間もない社会人が二千万円の年俸は大変なことですがと記者会見で聞かれ、「このあいだ大阪に帰ったとき、お父さんが『オレは朝から晩まで働いて、わずかなカネしか稼げない。お前は好きな野球をやって、大変なカネをもろうてるんや。普通の人に申しわけない、という気持ちでおらなあかんぞ』といったんです。お父さんの言葉を忘れんようにしたいです」としっかり父の教えを口にする素直さも健在だ。一方で母は「急に大きなおカネをもらうようになって、和博の人が変わらなければいいが……」と心配した。なお岸和田の“清原和博後援会”は発足当初の会員数300人から新人王獲得で600人へと急増。実家に帰ると頼まれたダンボールひと箱分のサイン色紙があり、孝行息子は律儀に午前1時過ぎまでかけ、すべてにサインをしてから寝たという。

さて、同じ頃、ひとりの投手がひっそりと米アリゾナの教育リーグに派遣されていた。ほとんど不貞腐れながら連れて行かれた、まったく乗り気じゃないグランド・キャニオン観光。……のはずが、そのあまりの巨大さに圧倒され、「なんて自分は小さいんだろう。もっともっと大きな気持ちで野球をしよう」と涙を流しながら心に誓ったのが、プロ1年目はわずか2勝に終わった桑田真澄だった。

明暗を分けたKKコンビ。もう桑田・清原の順番じゃない。清原・桑田やで。大晦日のNHK紅白歌合戦では審査員席から、「DESIRE -情熱-」を熱唱する銀髪の中森明菜を見つめるタキシードできめたキヨマーの姿。炎のように燃えたルーキーイヤーは、野球界を飛び越え、気がつけば社会現象となっていた。

「ミロNo・1スポーツクラブ」が募集した「’86ぼくらの憧れ大賞」で2位の川合俊一(バレーボール)47票を大きく引き離し、350票を集めぶっちぎりの1位に輝いたのは清原和博である。投票者の「ぼくと5歳しか違わないなんて信じられない」という声が証明するように、なにより小・中学生の少年たちと歳の近い、妙に親近感のあるヒーローだった。TBSラジオ特別生番組『清原和博・青春真っただ中』では、20人のちびっ子たちからの質問コーナーで「いま好きな女性はいますか?」と聞かれ、「そうですね……ええ」とあっさり認めてしまうアイム・ア・スーパースター。なのに子供たちの感想は「顔がデカイ」とか「ジャンケンしたかった」なんて、近所のよく遊んでもらっている兄ちゃんに対するスタンスだ。自分も当時小学2年の埼玉ボーイだったが、プロ野球を熱心に見始めたのはこのシーズンからなので、ちびっ子たちの気持ちはよく分かる。確かにキヨマーには、人生の教訓よりチンチンのデカさを聞きたくなる親しみやすさがあった。

こうして清原和博は時代の寵児となった。そして、西武黄金期到来と時を同じくして、ニッポンは欲望渦巻く、混沌と混乱と狂熱のバブル景気へと突入していくことになる。

…つづく

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