2022-09-27 18:00

西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第2回】

西武ライオンズの清原和博を知っているか?

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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「ロールスロイスに乗ってセブン・イレブンにおでんを買いに行く」

気がつけば、みんな清原に対して兄貴面して助言を送りたくなるのだ。『週刊宝石』86年4月18日号で実現した三冠王・落合との対談では「酒を飲むのも一生懸命飲む。メシを食うのも一心不乱に一生懸命に。女と遊ぶときもそう。野球をやるときももちろんそう」とオレ流からお節介アドバイス。西武のチームリーダー石毛宏典とは『週刊ベースボール』の正月企画で顔を合わせ、チーム練習の休みはないか尋ねると「女の子とデートしにでも行くからか?(笑)」なんて返されてしまう。

『週刊現代』はPL時代のチームメイトにマブダチキヨの童貞喪失時期からもう1本のバットのサイズまで直撃取材。本人は『週刊ポスト』の記者から「アガったといえば、初体験の時と入団発表とどっちがアガってしまった?」とか「でも、あっちの方も背番号(3)ぐらいに知っているのかな?」なんて、とんでもなくゲスな質問を投げられる。ってあんたら現代なら全員コンプライアンス的に即アウトだよ! もしかしたら、清原和博は誰よりも昭和のオヤジメディアからセクハラを受けてきたガラスの十代なのかもしれない。

一方で、遠征先で門限破りをやらかすと東尾修ら大先輩が首脳陣との間に入り、罰金の減額交渉までしてくれた。田舎の寮生活ではときに先輩の車に乗せてもらい、青梅街道沿いのリンガーハットへ行って、そこで長崎ちゃんぽんを食べながら女の子の話で盛り上がる。良くも悪くも昭和体育会系ノリの関係性。おせっかいで面倒見のいい兄貴とやんちゃな弟。まさにキヨハラ・ブルース・ブラザーズである。思えばあの頃、みんな雑にキヨマーに突っ込んだ。それが、令和の清原に対してはどうだろう? 2016年2月に覚せい剤取締法違反で逮捕され、52歳になった2020年6月15日午前0時に執行猶予が満了したが、テレビ番組でも周囲は過度に気を遣ってるように見えるし、関連本や雑誌も読んだけど、基本マジ重い。昔と変わらず兄貴目線の距離感で突っ込んでいるのは、とんねるずの石橋貴明くらいのものだった。

やっぱり、清原和博の魅力は明るくやんちゃな弟気質とアイドル性だと思うんだよ。86年の開幕第2戦目にプロ初アーチを放つと、走りながらジャンプして右手でVサインを作り掲げて大喜び。かと思えばドラフトで巨人に指名されず涙、2年目の日本シリーズで巨人を倒す寸前にまた涙。飾りじゃないのよ涙はなんつって、これほど笑顔と涙が似合うプロ野球選手は見たことがない。しかめっ面の番長になる前のそんな痩身で八重歯のキヨマーが大好きだった。

だから何かと世界中で気が滅入るニュースが多い今こそ、明るく元気でクレイジーな「ライオンズの清原和博」を徹底的に書きたくなったんだ。逮捕前後のこと、追われるように去った巨人時代のこと、そして桑田真澄との〝KKコンビ〟で甲子園を沸かせたPL学園時代のこと。それらはよくメディアで取り上げられるが、意外なことに1986年から1996年の10年間(11シーズン)在籍した、若獅子時代のキヨマーは昭和と平成の狭間に埋もれている気がする。野茂英雄やイチローが出現する前、集客に苦戦する各球場にファンを呼び、世の中の注目をパ・リーグに向けさせた功労者は、間違いなく最強西武の4番バッターだ。

80年代後半、ブラウン管の向こう側にいる背番号3は切ないくらいにキラキラしていた。当時のテレビ埼玉では夕方5時から全日本プロレス再放送、6時から西武戦中継が始まる。親父はまだ仕事から帰っていないし、兄や姉は部活で遅い。その時間だけは小学生の自分がテレビを独占できた。ワクワクしながら青くる背番号3を眺めていると、台所からは母ちゃんが作る夕食の香りが漂ってくる。やった今夜はハンバーグだ。あっキヨマーがまたホームラン打ったぞ。うぉーなんて綺麗な放物線なんだろう。世界のすべてがクリアで、澄んでいた。

ちきしょう、泣きそうだ。俺は王将の餃子と洗体エステでなんとか生き長らえる40代のおっさんになったが、あの風景は輝ける少年時代の象徴のような風景として心のずっと奥の方に刻まれている。変則ギア付きのチャリンコで気の向くままに走り続け、草野球のゴムボールをみんなで追いかけ、駄菓子屋前の自販機で同じクラスの美少女アヤちゃんに一口貰ったファンタの青リンゴ味が異様に美味くて、それ以来青リンゴゼリー系の匂いを嗅ぐ度に小学五年生の夏に戻っちまう。

今でもよくあの時代のことや日常と隣り合わせの背番号3の勇姿を思い出す。たぶん、多くの同世代の人たちにとっても清原はそういう存在なのではないだろうか。ガキだった俺らに尾崎豊の歌はまだちょっと難しかったけど、キヨマーのホームランの凄さなら分かったからさ。

86年流行語部門・金賞受賞“新人類”の代名詞的存在としてチームメイトの渡辺久信や工藤公康らと表彰式にも出席。確かにあの頃の清原和博は何かを代表していた。大袈裟な言い方をすれば、プロ野球界を超えて当時のニッポンの若者世代そのものを代表していたのだ。同時にバブルに突き進むこの国の狂熱を体現した男でもあった。『週刊現代』の田淵幸一との対談では「ロールスロイスに乗ってセブン・イレブンにおでんを買いに行く、それがボクの夢なんですよ」と豪快に笑ってみせる19歳。たまんないよ。最高で最強で、なんてったってキヨハラだ。

さて、どこから話を始めようか。ビビったってしょうがない。まずは時計の針を35年前のあの日に戻そう。

1985年11月20日、日本列島を揺るがした運命のドラフト会議である。

…つづく

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