杉作J太郎が観る、考える、語る、そして…作る!「倍返し」どころじゃない展開と、「社会派」マーゴットに感服!
杉作J太郎が話題作を独自視点で語る不定期企画、今回のテーマはあの人気ドラマ・映画、そして杉作プロデュースの配信番組まで。腹が立ったら即SNS投稿、倍速再生、ギターソロは容赦なく飛ばす……そんな時代だからこそガマンが大事。さあ、君たちはどう観るか!?
堺雅人を甘く見ていた!
今夏、話題となったのは『君たちはどう生きるか』ですか。私もすぐ観に行こうと思ったんだけど……私はジブリ作品を映画館で観たのは女性と一緒に行った『千との千尋の神隠し』(2001年)くらいなんだよ。ほかのジブリ作品を観るきっかけも女性だったこともあって、今回も女性からのお誘いを待っていたんだけど、誰も誘ってくれなかったのでまだ観ていません。『君たちは~』ってタイトルが私にヒットしなかったのも理由のひとつ。だってどう考えても若者に向けられているじゃないですか。私なんて間違いなく両足を棺桶に突っ込んでいるからね。この状態で「どう生きるか」って問われても「もう死ぬとこなんだよ!」ってカンジだよ。なので、この作品は若者に「どうぞ観てください」と、譲ろうと思います。まあ、どんな映画かは知らないんだけども。
『君たち~』は公開まで作品情報を、いっさい明かさなかったんですよね。いま私が観ているテレビドラマ『VIVANT』も同じで、第5話まで進んでいるんだけど(8月19日現在)、まだすべての出演者が分からないんだよ。今ね、そういう時代が到来しつつあると思います。情報過多に対するアレルギーが始まっている。ひと昔前は何でも知っているような人が尊敬されていたんだけど、今は何にも知らない人が求められているんじゃないかな。私が出会う人って、ラジオスタッフのるーちゃん(大学生)のように若い人が多くなるんです。その若い人たちにモノを知っていることを前面に出して接しても喜ばれることなんてないんだよ。それよりかは「共に知っていきたい」というかたちのほうがいい。私はこの歳だから大概のことを知ってしまっているので、いま忘れる努力をしていますよ。これが今の私の生き方です。
先ほど話した『VIVANT』も話題になっていますね。この作品は堺雅人、阿部寛、役所広司という超豪華キャストによるドラマなんだけど、私は二階堂ふみさんが出ていなかったら観ていなかったでしょうね。私は二階堂ふみさんが大好きで、彼女の芸術雑誌も全て買っています。二階堂ふみさんは映画の仕事が多いから「二階堂ふみをタダで観られる!」が最初の視聴理由。そうしたらこれが素晴らしいドラマでね。なんというか根気、ガマンする力がスゴい!テレビって視聴率を取ってナンボの世界じゃないですか。なのに、この作品は第3話くらいまで捨てているんですよ。長期海外ロケも行っているし、力の入っている作品であることは分かる。だけど私には何か物足りなかった。というのも主演の堺雅人に全然“倍返し感”がないんだよ。もう、ただのヘタレ商社マンでさ。だから「あれ~、半沢直樹のようなキャラを観られると思ってたのに残念だなあ」なんて思っていて。それと、この作品が商社と公安を描いていることもあって「強くて大きな権力側をカッコ良く描く作品ってどうなの?」という思いもあって正直、見届けるのがシンドくなっていたんですよ。
そうしたらね、第4話で堺雅人が豹変するんだよ。ヘタレ商社マンは世を忍ぶ仮の姿で、本当は「別班」と呼ばれる日本を国際テロリストから守る非公然組織の一員だったことが明かされる!これが凄みがあって任務のためには殺人上等という半沢直樹どころか鳴海昌平(※東映映画「遊戯シリーズ」に登場する、松田優作演じる凄腕スナイパー)キャラ。だから“最も危険な倍返し”を喰らいましたよ。そして、その設定を第3話まで明かさずガマンしたところを誉めたいですね。必殺シリーズでいえば中村主水(※表の顔は「昼行燈」と呼ばれるナマクラ同心、夜は凄腕の殺し屋という必殺シリーズを代表するキャラクター)を第3話までヘタレ同心役で見せるか?ということだから。でも溜めただけの効果はあった。あれは痛快な“3週返し”でしたね。
この作品はスター俳優が揃っているけど、みんな二枚目の演技はしていないんです。でも第3話にして松坂桃李が初めて二枚目演技をするの。松坂も実は別班の一員で、第4話のラストに松坂が「ねえ、先輩」と言った瞬間、暗闇から姿を現すのが堺雅人!これを観て「日本でも『007』が出来たのか!しかもテレビドラマで!」という驚きがありましたね。
主役が平気で人を殺す場面があるというのも大門刑事(※渡哲也が演じた、ドラマ『西部警察』シリーズの刑事。ラストは大体、ショットガンで悪人を射殺していた)以来だね。あの『ハングマン』シリーズ(※「現代版必殺シリーズ」と呼ばれたミッション遂行型アクションドラマ。ラストで悪人たちが社会的地位を抹殺されるような仕置きをされる)でも命を奪わないお仕置き程度で済ませているのに。しかも眉間を撃つなんて、黒岩刑事が今井健二(※黒岩は渡哲也演じる『大都会』シリーズのはみだし刑事。今井健二は70年代ドラマで悪役を得意とした俳優)に弾丸を叩きこんで以来じゃないかな。まあ、今井さんの場合は殺されても、また違う悪役としてすぐに出てくるんですけど。あと、これはプロデューサーが各方面と戦ったと思うんだけど、普通の会話のなかに「乞食」という放送注意用語が出てくるんです。これは腹を括っているよ。そこで私は思うんです。世の中がこれだけつまらなくなってしまった今、大人が腹を括るところ見せなきゃいけない!と。なぜこんなにつまらなくなってしまったかというと、みんなが付和雷同で、なんとなくの気分で喋っているからなんだよ。「いいね!」がたくさん貰えそうなことを言ったり、叩かれそうなことは言わなかったり。みんなが勝ち馬に乗っている。そこへいくと『VIVANT』からは「負けてもいい、叩かれてもいいからとにかく面白いことやろうぜ!」という気概を感じますね。だからドラマを語る際、数字のことなんて言うのはやめようよ、と。だって数字が欲しければ堺雅人も、もっと早くに正体をあらわしているだろうから。
これを踏まえて、みなさんに問いたい。腹が立っても、いいことがあっても、何でもかんでもSNSに投稿する人がいますよね。でもね、SNSっていくら投稿してもタダかもしれないけど、SNSは日記ではないんです。そんな現代だからこそ『VIVANT』のガマンの姿勢を見習いたい。モーニング娘。も「愛の種」や「モーニングコーヒー」があってこそですから。
これからの見どころ?この記事が出る頃にはまた何かが始まっているかもしれないけど……やっぱり私は二階堂ふみさんですね。こうなってくると、あの方が医者という役のまま終わるとは思えませんから。二階堂ふみさんこそ、鳴海昌平……いや、それ以上の狂気を持つ伊達邦彦(※1980年版の映画『野獣死すべし』で松田優作が演じた殺人者。『リップ・ヴァン~』は、伊達が刑事に強制ロシアンルーレットをさせながら語る不思議なおとぎ話)です!二階堂ふみさんの口から『リップ・ヴァン・ウィンクル』の話が聞けるのを楽しみにしています!!
聞き手・執筆=内田名人
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杉作J太郎|映画制作プロダクション「狼の墓場プロダクション」代表。映像プロデューサー、詩人・ラジオディスクジョッキー・漫画家・俳優・ラッパー・映画監督・小説家とマルチに活躍。監督作品『任侠秘録人間狩り』、『幽霊スナック殴り込み』がU-NEXT、Amazonプライムなどで配信中。吾妻ひでおの漫画を原作とした映画『チョコレート・デリンジャー』も完成間近!
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