TKO(木本武宏・木下隆行)『転落』どん底からスタートラインに立つために
ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第56回は、『転落 TKO×浜口倫太郎』でコンビ結成から不祥事の舞台裏を告白したTKO(木本武宏・木下隆行)が登場。小説家・浜口倫太郎氏によって小説という形で、描かれた転落と顛末のバックヤード。情けないけど、人間っぽい。TKOの人間劇場――、その第二章が幕を開ける。
第三者による自伝小説
――まず、現在のお二人の状況から教えてください。今夏から1年かけて、全国47都道府県を回る単独ライブツアーを開催するとアナウンスされています。
木本武宏 8月からワゴン車に乗って全国ツアーを始めるので、現在はネタ作りやその準備をしている最中です。そして、YouTubeチャンネル『TKOチャンネル』を開設したので、ほとんどの日々をこの二本柱に費やしているという感じですね。
――個人事務所という形なんですよね?
木本武宏 9ZLaboという会社とタッグを組んで、窓口のお手伝いなどをしてもらっていますが、僕らはフリーという扱いになりますね。
――定期的にトークライブも行っています。お客さんの反応はいかがでしょう?
木本武宏 温かい反応が多いと思います。『TKOチャンネル』でも応援のコメントが目立つのですが、やっぱり「この詐欺師が」みたいな声もあります。僕が人を騙したように受け取っている人も、まだまだいらっしゃって。いろいろなインタビューで状況説明をしてきたつもりなんですけど、きちんと伝わるにはもっと時間がかかるんやろうなと。コツコツ頑張っていくしかないなって思っています。
木下隆行 営業などに行くと、最前列の子どもが僕にペットボトルを投げるフリをしてきたり、お客さんが「写真撮って撮ってください! あ、ペットボトルも持ってください」とかイジってきてくれる(笑)。めちゃくちゃありがたいです。愛を感じますね。
――『転落』でも描かれていますが、木下さんは後輩からイジられることがイヤで、あのペットボトル騒動に発展します。ですが、今はイジられることを受け入れられるように?
木下隆行 今はそっちの方がありがたいと思っています(笑)。
――(笑)。浜口倫太郎さんの手腕もあって、『転落』はTKO史に加え、よゐこ、ますだおかだといった、当時の松竹若手の気鋭さも伝わってきます。物語は、木本さん視点で描かれています。
木本武宏 浜口さんの判断で、ツッコミ側の目線の方が読者には入りやすいだろうと。僕も浮き沈みがありますが、木下って浮き沈みというか、本当に自由に生きてきた人間。それから比べると、僕はノーマルなんです。木下の自由奔放さだったり、当時の若手事情を本の中に抽出するなら、ノーマルな僕の目線の方がいいと。
――第三者が小説として描くことで、ものすごくフラットに情報が入ってきて驚きました。シンプルに面白い本です。
木本武宏 いろいろな方、それこそ近しい人たち含め、「こういうことが起こったんです」と説明してきたんですけど、仲が良いからこそ「よく分かった」と言ってくれる一方で、「よく分かるんだけど、やっぱり言い訳に聞こえてしまう」といったアドバイスも多かったんですね。僕の中では、結構ショックだった。そんなつもりはなくて、「ありのまま時系列に沿って話しているんやけど」っていう気持ちなのに、なかなか伝わらない。今回、幻冬舎さん以外からもいくつか書籍のお話をいただいたんですが、先のアドバイスもあって、僕の手記としてまとめるのは危ないなと思ったんです。その中で幻冬舎さんから、「小説はどうですか?」と提案された。浜口先生がフラットな目線で書いてくだされば、一番伝わるんじゃないかなって思ったんです。もう一つ、これは僕の願望なんですけど、“僕がなぜお金に走ったのか”、その前段階のところを知ってほしかった。僕と同じような年代、同じような境遇で、お金に焦って、もがいてる人ってたくさんいる……僕もそうやし、周りを見てもそう感じました。その上で、一番最悪なパターンを選んでしまった人間がここにいるので、同じような失敗をしないでほしいという気持ちもあったんですね。
――木下さんは、小説という形式をとった『転落』を読んでみて、どんな印象を持たれましたか?
木下隆行 僕目線の2作目が出ると思っていましたね、ははは。実際、僕は一人の登場人物になってましたし。でも、僕との出会いを含め、すごく読みやすかった。いろいろ考える機会にもなりました。僕のペットボトルの件で言えば、やっぱり自分の心が一番ちっちゃなってた時やし、余裕がなかった。笑い飛ばせばいいものを、後輩に感情的になってしまったのは、50歳を目前にしたタイミングの中で不安があったんやと思います。このまんまで大丈夫なんかなみたいな。第一線でやれていない自分らもおるし、自分らの仕事に対しても納得いってない。刺激というか、前まであったものを失っていた時期やったから、自分が弱っていたような気がします。
――今でこそ振り返ることができるけど、当時はそんな余裕はなかったですか?
木下隆行 YouTubeチャンネルを始めてみたもののとんでもない数のBADがついて。YouTubeという太いコンセントを抜きたいくらいだった(苦笑)。今は、こうやって普通に話せますし、ネタにもしてもらえるんですけど、毎日が怖かったですね。
――まだまだ続くインタビューの続きは発売中の「BUBKA8月号」で!
取材・文=我妻弘崇
TKO=ティーケーオー|木本武宏(きもと・たけひろ)と木下隆行(きのした・たかゆき)によるお笑いコンビ。1990年結成。1994年、『ABCお笑い新人グランプリ』 新人賞を受賞。『キングオブコント』ファイナリスト(2008年、2010年、2011年、2013年)。コント経験を生かし、バラエティー以外にもドラマ、映画など多数出演するも、両者ともに不祥事を起こし、松竹芸能を退社。現在は再びコンビとして、フリーで活動中。
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