2023-06-03 20:00

Netflixドラマ『サンクチュアリ 聖域』撮影舞台裏を人気スタイリストが語る

スタイリスト伊賀大介氏がNetflixドラマ「サンクチュアリ 聖域」を語る
スタイリスト伊賀大介氏がNetflixドラマ「サンクチュアリ 聖域」を語る

5月4日からNetflixで配信が始まるやいなや中毒者続出。「相撲」という若い世代には馴染みの薄いジャンルが題材のドラマ『サンクチュアリ 聖域』が、目下世間を賑わせている。今回、スタイリストとして作品に関わった本誌おなじみの伊賀大介氏に、稽古から撮影まで約2年半費やされたという作品、そして登場人物のスタイリングについて聞いた。

相撲映画の難しさ

──伊賀さんはどういう経緯で『サンクチュアリ 聖域』にスタイリストとして参加されることになったんですか?

伊賀大介 監督の江口カンさんとは、CMの仕事で知り合ったんですよ。カンさんの作るCMってめちゃくちゃ男っぽい感じで、僕、すごい好きで。カンさんがやった『ガチ☆星』って競輪の作品にコメントを出させてもらったり、その後には『ザ・ファブル』をやって。そういう感じでカンさんと繋がりがあって、「『サンクチュアリ』みたいなヤンキー感、『ロッキー』的なドラマなら伊賀だろう」という感じで(笑)、話が来たのかなと思います。監督とは、世界基準を目指すとなると『クリード』シリーズや『ザ・ファイター』みたいな良質な格闘人間ドラマがあるので、そのレベルに行きたいよねっていう話をしたりもしましたね。

──相撲をテーマにして、ヤンキーを主人公に、ロッキーのような熱いドラマを描くという作品の構想を聞いたときはどう思われましたか?

伊賀大介 面白そうだけど、撮影が超大変だろうな、と。案の定、大変だったんですけど(笑)。ボクシング映画がなぜいっぱいあるかって言うと、試合シーンでパンチが当たってなくても当ててるように見せられるからって理由があって、撮影しやすいからだと思うんですよ。

──カメラのアングルやカット割りなどでパンチが当たってるように見せられますよね。

伊賀大介 でも相撲は肉体と肉体の本気のぶつかり合いがないと成立しない。フワッとした立ち合いをすると、逆に怪我をしちゃうんで。しかも、撮影だと「このテイクもいいけど、もうワンカット行こう!」ということも起きるので、1カットのために何十回もやらないといけないこともある。大変そうでしたね。

──YouTubeにアップされた公式映像で、主演の一ノ瀬ワタルさんが裸でアクションすることの大変さも語っていました。服を着ていたら中に体を守るパッドを仕込めますが、裸だとそれができませんもんね。

伊賀大介 それから相撲って、マジで体がデカくないと意味がなくて。だから役者は本当に飯をめちゃくちゃ食って、稽古して。

──体作りにも時間をかけて、稽古と撮影を含めて2年半かかったそうですね。

伊賀大介 日本の映像作品としては超絶異例のことだと思います。もちろん、コロナでの延期とかもあったんですけど、それでも相当長いですね。

──長期間の準備と撮影が可能になったのは、やっぱりNetflix製作だからでしょうか?

伊賀大介 それもあると思いますし、脚本がすごい力強いんで、「ここまで撮っておいて止めるんですか?」みたいなことにはなるだろうなと感じてました。

服とともに成長

──作品にそれだけの力があったってことですね。江口監督から伊賀さんにはどういうリクエストがあったんですか?

伊賀大介 格好つける感じじゃなくて、熱い男たちの話だから、もう大いにやってくれみたいな感じでしたね。だから、余貴美子さん(主人公の母親を演じた)とかはもうやりたい放題(笑)。今回に関してはスタイリッシュにやるというより、話のリアリズムに寄り添ったっていうか。「こういうヤツいるよな」っていう感じで小さいところから本当にしていかないと、フィクションという大きな嘘は描けない。染谷将太君(主人公の同期の力士役)のTシャツのダサい感じとか絶妙で、自分でも気に入っているところです。そういうふうに余計なことはあんまり入れない感じにすると、余さんとかは思いっきりぶっ飛ばさせていただけるんで(笑)。

──奔放すぎる母親のえげつない感じが服装に出ていました。伊賀さんとしても遠慮せずにスタイリングができたんですね。

伊賀大介 余さんも「もっと来い」って感じだったんで、肌の露出を気にして「ここを隠したらいいんじゃないか」とかやるのは逆に失礼だと思って振り切れましたね。

──伊賀さんのお仕事としては、クランクイン前に衣装を考えたり選んだり、役者さんとの衣装合わせをしたりすることがメインになるんですか?

伊賀大介 そこが9割みたいなところはありますね。「自分はこういう服を着て、こういうことをやるんだ」っていうのを服を通じて俳優部に理解してもらうっていうのが、僕の仕事です。

──服でキャラクターを描くんですね。

伊賀大介 主人公の猿桜は、肉体の変化と最後に髷を結うことで成長を表現してるから、洋服では成長を表現しにくいんですよ。服での成長の表現がわかりやすいのは、忽那汐里さんの役ですね(主人公を取材する新聞記者を演じている)。最初はローヒールを履いていて、仕事ができるようになるとPRADAのピンヒールを履くようになる。最後のほうは私服で、猿桜がいる相撲部屋に来るようになる。これは、仕事の時間以外のプライベートでも彼らと積極的に関わるようになったということの表現です。服の変化で、彼女がどんどん鎧を解いていって相撲が好きになっていることを表しました。

──化粧廻しのデザインも担当されたそうですね。

伊賀大介 調べると化粧廻しって価格が何百万円とか当たり前で、制作期間も半年とかなんですよ。昔は龍とか麒麟とか日本画の範疇だったのが、Macが導入されて、いきなり図案の幅が広がるんです。ロボットアニメみたいなのだったり、琴欧洲の「ブルガリアヨーグルト」とかもあったじゃないですか。助監督さんがいっぱい資料を見せてくれたんで、そういうのを取り入れて、後輩の柿畑(辰伍)くんに手伝ってもらって作業しました。

──撮影現場には、どの程度行かれたんですか?

伊賀大介 ちょこちょこって感じですね。両国国技館のセットにも行きましたよ。

──国技館の映像はCGも含めて、すごいクオリティでしたね。「本物は使えないだろうし、どうやって撮ったんだろう?」と思ってました。

伊賀大介 僕もそこは懸案だったんですよ。プロレス・ボクシングヲタとして何十回も国技館に行ってるから、偉そうなことは言えないけど、大丈夫かな?って。でも、ちゃんとできあがっていて。枡席の4段目ぐらいまでセットが作ってあって、その後ろはグリーン(合成用のグリーンバック)なんです。

――まだまだ続くインタビューは発売中の「BUBKA7月号」で

取材・文=武富元太郎

伊賀大介=いが・だいすけ|1977年、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他諸々、幅広いフィールドで活躍中。近年関わった作品は、映画『ちひろさん』、『百花』、『シン・ウルトラマン』、『余命10年』など。

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