2023-05-09 20:00

『AKB48、最近聞いたよね…』元番組Pが捉えたAKBの2年間【完全版】

本編の後に放送される「AKB48天下一HADO会」と称したチーム対抗バトル
本編の後に放送される「AKB48天下一HADO会」と称したチーム対抗バトル
写真/©AKB48

『家、ついて行ってイイですか?』など数々のヒット作を生み出してきた元テレ東プロデューサー・高橋弘樹氏。2年前から彼が手がけたAKB48のレギュラー番組は多くの話題を呼び、グループ再浮上に一役買った。雑誌やラジオ出演、タイアップ獲得など、彼が番組を通してグループにもたらした功績は数知れないが、一体その裏では何が考えられていたのだろうか?

ひろゆき出演の意図

――出演依頼をしている最中にテレビ東京を退社されることになって驚いているんですけど、現在の高橋さんの肩書というと……?

高橋弘樹 株式会社tonariのCEOになります。まあ、社長でも何でもいいんですけど、零細企業のおじさんです(笑)。

――制作会社とかですか?

高橋弘樹 制作会社もやりますし、AKB48のお仕事もお受けします。でも、どちらかというと、(テレ東時代に手掛けていた)「日経テレ東大学」のようなYouTubeメディアを作る会社だと思っていただければ。

――退社のニュースを聞いて、高橋さんの身の振り方もそうですし、『AKB48、最近聞いたよね…~一緒になんかやってみませんか?~』はどうなるんだろうと心配していました。

高橋弘樹 僕は2月末まで社員だったので、それまでの仕事はしています。ロケした回が4月中旬オンエア分までありますね。2月のヨガの回を最後に自分が編集するのはやめにして、残りをどうするかはテレ東に任せています。

――4月以降も番組は続くんですか?

高橋弘樹 まだしばらく続くと思います。

――そうでしたか!そもそもですが、AKB48の番組を担当することになったのはどういう経緯があったんですか?

高橋弘樹 テレ東とAKB48の運営サイドが番組をやりたいということで話が雑談レベルから浮上したのが始まりです。その頃、AKB48はキー局で冠番組がなかったんですよね。

――『乃木坂に、越されました』が2年前の7月に放送開始ですから、そうですね。

高橋弘樹 キー局のゴールデンタイムへの出演もほとんどなくて、どうにかしようということですね。その座組に誘われました。

――それまでAKB48と仕事をしたことは?

高橋弘樹 番組にゲストで来ていただいたことはあります。向井地美音さんとか何人かですね。ガッツリとしたアイドル番組をやったことはほぼないです。半年か一年くらいジャニーズさんとやらせていただいたくらいで。

――それはテレビマンとしての考え方として関わってこなかったんですか?

高橋弘樹 そうです。面倒臭いことも多いし(笑)。それよりも企画重視のコンテンツを作るのが好きなので。いわゆる「タレント行政」みたいなことはあまりしてこなかったです。

――AKB48と仕事をすることになり、じゃあ中身をどうするという話になりますよね。

高橋弘樹 番組名を変えながらやってきて一貫したコンセプトは、AKB48は今でも人気はありますけど、再浮上しようじゃないかというものです。前期は結構迷走してました。プレイヤーも多かったですし。話し合いをしながらではあったんですけど、僕の考えがあれば、他の方の考えもありますから、うまくまとめきれなかったですね。しかも、コロナ禍の真っただ中だったので、AKB48の良さである大人数というものがマイナスに作用してしまって。ロケしようとすると誰かがコロナで中止、みたいな状況でした。そんななか、方向性と意思決定を絞ってやるようになって、『AKB48、最近聞いた?~一緒になんかやってみませんか?~』のシリーズに落ち着きました。

――再浮上がコンセプトだったんですね。

高橋弘樹 紅白歌合戦に出場できなかったことがニュースになっていたりしたので、再出場できるくらいになるまで知名度を上げましょう、と。それと、坂道を意識したのはありました。後期はそこまで意識しませんでしたけど、やっぱり乃木坂46さんが絶頂期にありますから、それを超えることを目標に、すべての企画にうっすらとテーマとしてあった気がします。これは乃木坂46はやらないだろうとか、乃木坂46より体張ろうよとか。

――番組を始めるにあたりメンバーと面談しましたが、どんなことを感じましたか?

高橋弘樹 みんな一生懸命なのに、不安を抱えていて報われない子が多いな、もったいないなと思いました。どのアイドルもそうかもしれないけど、AKB48もそうなんだなって肌で感じました。

――その面談は何を意図していたんですか?

高橋弘樹 メンバーを全然知らなかったんですよ。タレントさんと、ガッツリ仕事をする時はご飯でも食べに行くものかもしれないんですけど、80人もいたらその時間もないし、アイドルだからこちらも気を遣うじゃないですか。そこで、ちゃんと知るために面談しようと思いました。あと、最初に打ち出した企画に対してやる気はあるのかって聞きたかったので。

――番組を始めるにあたり、バラエティにアイドルをどう落とし込むかという発想はありましたか?

高橋弘樹 それはありました。企画というフレームにアイドルをはめ込むという作業ですから。『乃木坂に~』では上手くいかなかったと思いますけど、ファンの方よりもその外を見ていました。外に対して訴求するような番組を開発したいという思いがスタッフにはありました。世間は今のAKB48をあまり知らないわけですから、企画性で興味を持たせるしかないんですよね。そこにAKB48がチャレンジしているという構図が話題になればいいなと考えていました。

――初期はそのためにひろゆきさんがキャスティングされたんですかね。

高橋弘樹 スタッフの雑談で、「ひろゆきさん、いいよね」と名前が挙がりました。AKB48に興味がない代表例といいますか。「AKB48はかわいくない」みたいな発言をしていましたから、そういう発言をしている方のほうが番組は立体的になるんじゃないかという狙いがありました。

――まず画が新鮮でしたね。ひろゆきさんとAKB48が同じ画面に映るのが。

高橋弘樹 ですよね。僕も観たことなかったので。そこまで上手くいったとは言えないものの、その後、ひろゆきさんもAKB48に興味を持ってくれたので。最近は出ていませんけど、番組MCから降りたわけじゃないはずですよ。

――あ、そうなんですね。

高橋弘樹 そうです。ただ、芸人さんと組み合わせるのだけはやめようと思っていました。それは日本テレビさんがやっていますから。

――昨年4月からスタートした『サヨナラ毛利さん』はチェックしていました?

高橋弘樹 TVerでちょこちょこ観ていました。ファンの方は芸人さんとアイドルの絡みに慣れているから、僕らの番組には戸惑ったんじゃないですかね。アイドル番組っぽくないから。

――ファンの反応は気になりましたか?

高橋弘樹 エゴサはめっちゃしてます。外側を意識したとは言いつつ、アイドルってファンの方とのコミュニケーションがとても大事ですから。最終的に味方をしてくれるのもファンの方ですし。その層が面白いと思わないと意味がないです。でも、議論は起きていましたね。「なんだこの企画」みたいな。

――番組を通じて、外側に届けられたという手応えはありましたか?

高橋弘樹 大きくは難しかったですね。ひろゆきさん界隈で話題になったかもしれませんけど、決して初期は面白い番組が作れたとは思ってないんで……。

――深夜番組の視聴率ってどれくらい意識するものなんですか?

高橋弘樹 意識しなくはないです。他局の同時間帯と比べたら、並んだことも超えたこともありました。(前の時間に放送されていた視聴者の)流入にしてはキープすることもあれば、逆転することもありました。それって積極的に観に来ているということですから、そういう意味では、深夜2時台にしてはまあまあだったかなという感じです。

――数字が伸びた回の傾向はあるんですか?

高橋弘樹 強いていえば、小栗有以さんとか人気メンバーさんが多めに出ている回は0.1くらい違うのかな。最近、いいなと思っているのは「天下一HADO会」ですね。なぜかって、メンバーさんがいっぱい出ているからです。

――その「天下一HADO会」はどういう経緯で始まったんですか?

高橋弘樹 僕とHADOの社長と面識があって、雑談のなかで決まりました。HADOってゲームとして面白いし、スポーティなイメージだし、DHさんも乗ってくれて、やることになりました。

横山由依卒コンが原型

――ひろゆきさんがフェードアウトしていって、何かとコラボする形になっていきましたが、これはどういう経緯だったんですか?

高橋弘樹 ぶっちゃけると、制作費が足りなくて、スタジオが開かなくなったので、ひろゆきさんはたまにしか出るタイミングがなくなっちゃって(笑)。それもあるし、番組のリニューアルが決まって、じゃあどうするのかとなった時に、そのタイミングで権限が自分に集中してきたので、AKB48にそんなに興味がない僕が真正面から魅力を引き出す方向に振り切った、という感じです。僕が魅力的だと思う表情や画作りに踏み込んでいきました。遠回りでも、それが外部に広げるというミッションにつながるかなと。少しずつでいいから草の根で仲間を増やしていこうというのがコラボ企画中心でいこうとした理由です。企業さんだったり、アップアップガールズ(仮)さんだったり。

――印象に残っている回はありますか?

高橋弘樹 たくさんありますけど、『少年サンデー』編集部に「グラビアをください」ってお願いしに行く回で、担当の方が小栗さんと村山(彩希)さんにはOKを出したけど、大盛さんのことはスルー気味だったんですよ。でも、カメラテストで頑張って、それで大盛(真歩)さんはちょっとだけではあるけど、担当の方に認められたんです。大盛さんは悔しかったと思うんですよ。いろんなことをバネにして活動しているんだなっていうのが見えましたよね。その時に作った『ファーストラビット』のMVには、その思いとストーリーを詰め込みました。MVには毎回ロケで感じたタレントさんの魅力と、その時に感じたAKB48やその時々のメンバーの思いを画撮りとストーリーで表現してるので、ぜひ過去のものをYouTubeで見てみてください!

――大盛さんは去年は何誌もグラビアで載るようになりましたよね。

高橋弘樹 その可能性はある子だと思います。あと、初期の頃に江の島ロケへ行ったんですけど、大盛さんと千葉(恵里)さんが当時ロケ経験がなくて、「地元の人に話しかけたほうがいいよ」と言っても、全然話しかけられなかったんです。まだ原石だった頃が見えるVですね。今はロケ上手になりましたから。

――今後もAKB48と絡みたいですか?

高橋弘樹 そうですね。番組は離れますけど、HADOに関しては、ひろゆことして出演しますので。ただ、あの番組は超コスパが悪いんです(笑)。予算ないから、カメラ、編集、演出、Pまで全部やってましたから。毎週寝るヒマがなかったです。フリーとして生計を立てるのは難しい番組ですね(笑)。

――AKB48を担当して得た教訓のようなものはありますか?

高橋弘樹 作り手としての初心を思い出しました。僕はアイドル番組に興味がありませんでしたけど、それでも「アイドルっていいな」と思うようになりました。『乃木坂に、越されました』が終わり、リニューアルの仕方を考えていた時期、横山由依さんの卒業コンサートに招待いただいたんです。横山さんとは、前期の番組の時、あまりいい関係を築けていたとは言えないと思うんですよ。だからこそ、総監督だった横山さんの思いを理解したかったんですね。で、帰宅してから、セットリストの意味とかいろいろ考えてみたんです。そしたらセトリの中に『太宰治を読んだか?』という曲があったんです。これは、横山さんがNMB48を兼任していたことから、その思い入れもあって選んだと思うんですけど、歌詞を読んでみたら、すごく良かったんです。主人公の少年は生きる意味がわからなくて、毎日を辛く感じていた。そこに友人が太宰を薦めてきた。読んだことがなかった主人公はファミレスで慌てて読んでみたっていう歌詞なんですけど、この曲はオチがいいんですよ。結局太宰の本に人生の意味みたいなものは書いてなかった。だけど、太宰の本を通じて「人生とは何か?」と話せる友達ができた。だから、自分も以前の自分みたいな人を見かけたら、「太宰治を読んだか?」って言おうと思った――っていう話です。これ、太宰をAKB48に置き換えてもそうだなと思ったんです。人生つまらない時もあるし、もやもやする時もあります。でも、太宰でもAKB48でも、それを通じて「あの本読んだ?」とか「あの曲、聴いた?」とか誰かと語り合えることって素敵なことじゃないですか。もっと引いた視点で考えると、それがエンタメ作りの原点なんだろうなと思いました。会話のきっかけになったり、人生の孤独や悩みに寄り添ったり。ここからはまったくの想像ですけど、横山さんにとって、AKB48いうのはそういうものだったのかなって思いました。そういう思いを込めて、『AKB48、最近聞いた?』というタイトルにしたんです。

――あっ、高橋さんが考えたんですか?

高橋弘樹 そうですね。で、もう1回の大ブレイクに向けて少しずつ進化していけるように『聞いた?』から『聞いたかも?』、そして『聞いたよね…』にしたんです。本当は『聞いた!』で終わりたかったんですけど……。我ながら、いい話ですね(笑)。

――ぜひAKB48を追い続けてほしいです。

高橋弘樹 新曲のリリースが発表されたじゃないですか。その過程を追ってほしいとは言われています。どういう形でアウトプットするかはわからないですけど、ドキュメンタリーが得意なので、その文脈でお見せしていけるものもあるのかなとは思います。映画にするとか、そんな大層なものではないですけど。

――AKB48といえばドキュメンタリー映画ですから、可能性あるんじゃないですか?

高橋弘樹 ギャラ次第ですね(笑)。

取材・文/犬飼華

■AKB48、最近聞いたよね…
【HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/akb48saikinkiitayone/
【Twitter】https://twitter.com/akb48_tvtokyo

高橋弘樹=たかはし・ひろき|1981年生まれ。2005年にテレビ東京に入社後、『家、ついて行ってイイですか?』などのヒット作を生み出す。2023年3月、株式会社tonari代表取締役CEOに就任。経済メディア「ReHacQ」のプロデューサーを務める。

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