R-指定(Creepy Nuts)「Rの異常な愛情」―或る男の日本語ラップについての妄想─『真・スチャダラパー論(後編)』現在につながるSDPの足腰の強さ
Creepy NutsのMCとして活躍するR-指定によるイベント『Rの異常な愛情』。スチャダラパー回もいよいよ最終回! 人類にとって普遍的なトピックから、極めて限定的な時事ネタまで「interesting」に解きほぐす彼らの凄みを最後までご堪能ください。
呪縛から解放
――スチャダラパー解読、第三回はSDPの3枚目のアルバム『WILD FANCY ALLIANCE』(以下『WFA』)について話していきましょう。ちなみにこのアルバム名を直訳すると、そしてブックレットでもSHINCOさんが語ってるように「妄想同盟」という意味だね。
R-指定 デビュー作『スチャダラ大作戦』のフレッシュだけど世の中に物申すようなSDP、メジャー1stなのに意地悪で怖い部分も表現された『タワーリングナンセンス』のSDPときましたが、『WFA』はそこにあったような、ある種の攻撃性というものがちょっと鳴りを潜めてるアルバムでもあるんですよね。だから、ここで俺やみんなのイメージするSDP、それこそ“今夜はブギーバック”や“サマージャム95”、“BBOYブンガク”、“ノーベルやんちゃDE賞”につながるような、一つのテーマを面白い角度から掘り下げて、ANIさんとBoseさんの掛け合いで会話劇が成立して、しかもそれをちゃんとグッドミュージックと気持ちいいラップで構成するという「スチャの足腰の部分」が、より強化されて明確になったのが、この『WFA』だと思っていて。
――『スチャダラ大作戦』『タワーリングナンセンス』は高木完さんのプロデュースなんだけど、『WFA』からSDPのセルフプロデュース。それについてSDPは「完ちゃんたちと話が通じなくなった」と言ってるんだよね。それは仲違いやディスコミュニケーションというわけではなくて、SDP世代の考えているヒップホップ像と、完さんのような先輩世代のヒップホップ像にズレが生じて、自分たちが目指す方向に進むためにも、自分たちでプロデュースしないと作品が作れないという話になったと。完さんとSDPの年齢差は7~8歳ぐらいなんだけど、確かに20代前半だと、それぐらいの年齢差があると音楽、特にヒップホップにおいては、感覚の差がすごく大きいかも知れない。それは今も変わらないと思う。
R-指定 あと、1、2枚目は「オモロラップ」と括られることに対してのフラストレーションがすごく大きかったと思うんですよね。それに対するカウンターとしても、刺々しいラップになってたのかなというのもあると思うんですけど、『WFA』ではその呪縛から解き放たれた感じがあって、真に「interesting」な、「面白い」ラップばかりになってると思うんですよね。アルバムのジャケットは、3人がコタツに入っているのをイラスト化してるんですけど、実際にこうやって作られたアルバムらしくて。
――しりあがり寿さんのイラストだね。ANIさんとSHINCOさんの実家である松本家にBoseさんが行って、ひたすらウダウダしながら作ってたという。
R-指定 実家なんですか?
――ANIさんとSHINCOさんの実家は川崎市高津区、だからアップタウン川崎なんだけど、その団地のコタツでずっとだべりながら作ってたっていう。スペシャルサンクスに「松本家」って書いてあるのは、ご家族に迷惑をかけたからという(笑)。
R-指定 なるほど(笑)。3人が集まって、ああでもないこうでもない……それ、おもろいな!って集まって作られた感じが作品からも伝わりますよね。
言葉と言葉の飛距離
――このアルバムはインストの“プロロローグ”からスタートして、この「1曲目はインスト」方式は現在のSDPの作品にも繋がっていて。
R-指定 そして2曲目の“ヒマの過ごし方”は皆さんご存知の名曲だと思うんですが、「ヒマ」について延々と歌詞に落とし込んでいく曲で。〈そもそも「ヒマ」って言葉自体まずいい意味では使われない〉〈ヒマはダメか?悪いのか?そんなに嫌か?ヒマが〉と、要は「ヒマとはなにか」を問い続けるんですよね。PUNPEEさんが“Renaissance”で言ってた〈レノンも暇すぎてImagine〉とかもここからの連想なのかなと。そして、〈本来 ヒトはヒマだった そして それを受け入れる事が出来た/世界中のいたるところ その足あとを 見つける事が出来るだろう 大仏ピラミッド 巨乳 万里の長城〉。……まあ、巨乳をいきなり発想してしまうのもヒマの賜物ではないでしょうか(笑)。そして〈地図を作ったやつのゆとり なみたいていのものではあるまい〉〈うるう年に気づいたやつのヒマさかげんを想像してみろ〉。
――ヒマだから気づいたわけじゃないよね。ちゃんと科学や学問をやってるんだという(笑)。
R-指定 そして〈また かつて海の塩分を1パーセント上げようと 何千トンもの塩をあつめた男がいたとかいないとか〉。
――こいつは暇だね(笑)。
R-指定 ハハハ! こういうふうにヒマを定義していって、〈これらの事からもハッキリ言える 今の人がヒマを受け入れる 事が出来なくなりつつあるなら それは能力の減退だ〉 〈ヒマ人どもよ立ちあがる時だ ヒマを見つけて ヒマを知れ ヒマを生きぬく強さを持て〉と。これはね、俺もヒマ大好き人間として救われるっすね。Boseさんもリリックを書く時にいちばん大事なのは「ヒマ」って言ったりするじゃないですか。俺もヒマがマジで大事で。何もしてない時って、何もしてないわけじゃないんですよね。すべての準備であって、全て必要な行動の前段階でもあるから、「やいやい言わんといてくれ!」っていうのがありますよね。
――それはSonyに言ってる?(笑)
R-指定 ……それは邪推(笑)。素晴らしいのが、〈一生 棒にふるぐらいの ヒマと ゆとりを持って進もう 人の数だけヒマはあるのだそれこそあたりまえの事なのだ〉と、3ヴァース全部Boseさんが歌い終わったあとに、ANIさんが上ネタを「Easy~」って歌うという。ANIさんはこの曲中ずっとヒマやったというオチですね(笑)。
――そして、多分3人のギャラは一緒だよね(笑)。
R-指定 割に合わんですね(笑)。そして“クラッカーMC’S”ですね。〈1秒が60で1分60分は1時間〉〈夏は暑い〉みたいな、言うたら普通のことだけラップするんですよ。
――あたり前のことしか歌ってない。そこから「あたり前田のクラッカー」という1960年代に流行った藤田まことのギャグから引っ張って、このタイトルになったんだよね。
R-指定 なるほどな~……って誰がわかるんすか!(笑)
――インタビューの続きは発売中の「BUBKA4月号」で!「コラムパック」も配信中!
聞き手・構成/ 高木“JET”晋一郎
R-指定|1991年大阪府生まれ。中学生の時に日本語ラップと出会い、リリックを書き始める。高校1年生の時に足を踏み入れた梅田サイファー、そしてDJ松永とともに結成したCreepy Nutsのラッパーとして活躍中。バトルMCとしても、2012年からの「UMB」3連覇をはじめ、テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』での2代目ラスボスなど、名実ともに「日本一」の実績を誇っている。また、ニッポン放送『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』のパーソナリティーや、テレビバラエティーやドラマ・映画の出演などの幅広い分野で活躍している。
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