吉田豪「what’s 豪ing on」Vol.3 マヒトゥ・ザ・ピーポー
プロインタビュアー・吉田豪による新連載。第三回のゲストは、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポー。音楽のみならず、文筆活動、映画制作、自主レーベル「十三月」主宰など、旺盛な表現活動を行う彼の頭の中を覗きます。
あまりに馴染めなかった
――いろんなインタビューで断片的に語られている子供の頃の話が非常に興味深かったので、そこからまず掘り下げたいんですけど。
マヒトゥ ハハハハ、そんなに語ったかな?
――もともと転校が多かったわけですよね。そのせいか、「当時みんなに嫌われてた」って言ってたりするのが気になったんですよ。
マヒトゥ そうですね。最近フリースクールの先生がGEZANのドキュメンタリーを授業でかけたら、GEZANのライブにフリースクールの子たちが何人かでワッと来てくれて。一般的にはフリースクールの子って学校に馴染めないみたいなイメージですけど、すごい健全にも見えて。こんな世の中グッチャグチャのなかで学校の先生の言うこときけて、その先生に誉められるっていうほうがちょっと不健全な感じがしてて。質問とズレちゃいますけど、そういうのが反転しちゃってるような気がしてて。自分としては小さい頃からまっすぐやってきたつもりなんですけど。
――自分も当時そういうものにめぐり会えてたら、違う人生があったのかもしれない?
マヒトゥ あったかもしれないですよね。バンドをずっと好きでやりたかったけどメンバーいなくて、GEZANは20歳ぐらいで組んだ最初のバンドなんで。もうちょっと早めにバンドやって、もうちょっと言葉にできないような衝動を何かに置き換えられてたらもうちょっと人に嫌われる数も減ってたのかなっていう気はしてるんですけど(笑)。
――そのくすぶりの期間は絶対に無駄ではないはずだと思うんですけど、全てのベースに学生時代があるんだろうなと思ってました。
マヒトゥ だいたい保健室にいたようなイメージはありますね。どの学校に行っても保健室の先生はちょっと優しいイメージがあるんで。ちょっと適当なところもあって、カントリーマアム出してくれたりするんですよね。
――なんで浮き上がってたんだと思います?
マヒトゥ 遠足に行ったときも疲れたから途中で帰っちゃったんですよ。怒られてることの意味があんまりわかんなくて。引っ越すときにもらった色紙に「みんなから嫌われてました」とか「次の学校に行ったら自分勝手を直したほうがいいです」とか書かれたけど、自分勝手っていうのがどの部分を指してるのかイマイチわからないままで。さすがにバンドやっていろんな人に会う数も増えて、こういう部分を言ってるんだなっていうのがわかるようになってきたところはあるんですけど。何かが変わったというよりは、このデコボコに沿える環境ができてきた感じですね。
――周りもある程度それを認めて、「しょうがないな」でつき合っていけるぐらいの。
マヒトゥ できないことをできないまま、いびつなままあると、そのいびつが重なって形を作ってくれるのってあるじゃないですか。
――以前、「学校でハブられてたから、コムアイさん(※水曜日のカンパネラの初代ボーカル。21年9月に脱退)みたいにみんなの中心に立つ存在になるのは無理で、保健室で休んでる3~4人のための音楽をやっている」みたいなことを言ってたのにも、すごい納得したんですよ。
マヒトゥ そんなこと言ってたんだ。やっぱそうですよね。昔、戸川純さん(※80年代からゲルニカ、ヤプーズで音楽活動を行い、ソロ活動、TVやCM、映画出演なども)と対バンしたときに、「マヒトくんはパンクなのに髪が長いの?」みたいに言われて。べつに理由ないんですけど、なんでなのか自分でもわからないところがたくさんあるんで。赤が好きってこともそうですけど。そういうのがみんなの真ん中に行けるとは思わないですよね。
――「式とつくものに1回も出たことがない」って有名な話もあるじゃないですか。
マヒトゥ そんなことも言ってたか(笑)。……学校時代のことはポロポロ語ってるんですけど、あんまりしゃべりたくない感じがあって。自分でも理由がわからなくて、漏れちゃって出ることはあるんですけど、それなりにコンプレックスがあるんですよね、そういう時期に。みんなけっこう語ってくれるもんですか? たとえば向井秀徳さん(※ZAZEN BOYSのフロントマン。前号「BUBKA」23年3月号に登場)とかは。
――語りたくないならぜんぜん大丈夫です。
マヒトゥ 嫌でかわしたいって感じでもないんですよ。もともとバスケやってたんですけど、やめたときぐらいにボアダムス(※ハナタラシとして活動する山塚アイ(EYE、など名義多数)を中心に結成されたバンド)とか灰野敬二(※70年代よりアヴァンギャルドな音楽活動を行っている。不失者をはじめ数多くのバンド、プロジェクトを手掛ける)とか好きになって、理屈じゃない勝ち負けみたいな白黒ハッキリついてないカッコよさに惹かれて。そのときの自分の複雑さというかブレ方というか、そういうのにフィットした感じがあって。ノイズミュージックとかハードコアとかガーゼ(※22年11月に解散したハードコア・パンクバンド)とかそういうの聴いて、ムシャクシャしたときにムシャクシャした感情を持ってていいんだ、わかんないものはわかんないままでいいんだ、みたいな。学校で浮いてた理由は、学校って基本的にわかんないものをわかんないままってなかなか許されないですよね。こうすると正解があって評価が上がっていくとか。合唱は口を大きく開けて笑顔で歌えば点が高い、みたいな。
――わかりやすい正解がありますよね。
マヒトゥ でも、そもそも本来の音楽の正解とは逆なわけで。音楽なんてコンプレックスとか、学校の5段階評価で言い表せないものに確変が起きるみたいなことがたくさんあって。そういう回路が残されてるのが音楽の好きなところというか、救われたところで。
――最初にハマッたのがそういうビジネス色の薄い音楽だったのも大きいんでしょうね。
マヒトゥ そうかもしれないですね。式は、いっぱい引っ越ししてたのもあると思うんですよ。あと、お葬式もそうだと思うんですけど、その人のためにっていうより、その人がいなくなるこれからの世界を、みんなで故人を偲んで、その人がいなくなった世界を受け入れるためのものだと思うんですけど、それって本来は個人が決めればいいことで。それが俺は成人式とかもそうで。出てないから成人になった記憶がない、みたいな。それでピーターパンのままきちゃったんですけど。
――それボクの持論でもあるんですよ。日本での数少ないイニシエーションが成人式で、不良が成人式を区切りで大人になって、すぐ親になるとか、そういう文化だと思うんですよね。あそこに馴染めないとか行かなかった人は確実に大人になるタイミングを失って。
マヒトゥ ああ、しっかり外しましたね……。そのときはなんとなく集まるのが好きじゃなくて行けなかっただけなんですけど。
――結果、区切りがないまま生きてきて。
マヒトゥ 生きちゃったですね。ライブに子供を連れてくる人とか、友達の子供とか、子供ってストレスなくいろんなこと言うじゃないですか、「うわ悪魔!」とか。ふつうに傷つきますからね。こっちも大人の余裕とかないんで、それにふつうにムカついて(笑)。
――「子供は無邪気だなー」って感じで大人として受け止められないんですね(笑)。
マヒトゥ 対等ですね。
――向こうからしたら、見慣れない赤づくめの長髪の男がいたら何かは言いますよね。
マヒトゥ そうですよね。健全なリアクションで、みんな実際はそう思ってるんだよな。
――結婚式とか葬式とか、行かなきゃいけないときもなんとか逃れてきてるんですか?
マヒトゥ 基本的に黒いスーツとかないんですよ。その問題もわりとあるんですけど。
――わかります。だからボクは喪服を買うぶんの香典を払うってルールでやってますね。
マヒトゥ おぉっ! これから増えていくんだよな……。お墓とかもすごい不思議な文化だと思ってて。ぶっちゃけ、自分が死んだあとに灰になって、そこにみんなが拝みに来るみたいな、それよりもインターネット上にある、たとえば今回のアルバムとか映画とかインタビューの記録とか過去の写真とか全部集めた1個のフォルダみたいなのを作ったら、そっちのほうがよっぽど自分っぽいし。そのほうが俺は本来の意味でのお墓に近いと思ってて。死んだあともあんまりお金とか関わってたくないなっていうのもあって、お墓は新しい形が生まれそうな気がしますけどね。データっていうと寂しいのかもしれないけど。
――たしかに、今後はネット上で墓参りできるぐらいのラフさでもいい気がしますね。
マヒトゥ そうですよね。DNAとか、昔は替えの利かないピュアなものとされてたと思うんですけど、そういうのも変わってきてるなと思ってて。たとえば「純日本人」みたいな言葉もすごく嫌な言葉に思っていて。純粋とか替えの利かないDNAみたいな情報っていうのが、いかに無効で無力なのかって最近よく思うんですよね。それよりはその人の生きてきた痕跡とか、その人の動きみたいなことのほうがよっぽどその人自身を表してるというか。魂っていわれるものはそっちのほうが宿りやすいなと思ってて。そういう意味では作品とかしゃべった言葉とか全部、お墓みたいな遺書みたいなこととも取れますよね。
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取材・文/吉田豪
マヒトゥ・ザ・ピーポー|1989年生まれ。2009年に自らが作詞作曲、ボーカルを務めるGEZANを結成。GEZANでの音楽活動の他に、ソロや青葉市子とのユニット・NUUAMMとして複数のアルバムを発表。自身のレーベル・十三月で作品リリースや、フリーフェス「全感覚祭」を主催している。最新アルバムはGEZAN With Million Wish Collective名義の『あのち』。また、絵本作家の荒井良二とともに『みんなたいぽ』を刊行。
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