R-指定(Creepy Nuts)「真・スチャダラパー論」日本語ラップ創成期に与えたショッキング・ダイナマイト
Creepy NutsのMCとして活躍するR-指定によるイベント『Rの異常な愛情』。単行本第二弾も刊行され、シーズン3の開幕にふさわしい大ネタ、「スチャダラパー」回がスタートです。“今夜はブギー・バック”など、誰もが聴いたことのある曲をヒットさせた彼らをどこまでも深堀りします。
風邪に効きます
――『Rの異常な愛情』、第12回はスチャダラパー(以下、SDP)を取り上げます。
R-指定 以前のこの連載でも話しましたけど、今年の春にちょっと体調を崩したとき、ずっとSDPを聴いてたんですよね。
――「体調が悪いときにずっと聴いてた」というのもなかなかの表現だけど(笑)。
R-指定 とにかく自然に聴けたんですよね。入り組んだライムや、長い韻をドヤったりするのではなく、面白い内容を、掛け合いも含めた自然な話し言葉で、スムーズにラップとして形にする。それと組み合うトラックも、サンプリングを基調にしたビートで心地良い。だから聴いててストレスにならないし、「風邪に良いな、スチャダラパー」みたいな感じだったんですよね(笑)。
――葛根湯的な(笑)。
R-指定 ただ、そのスムーズさの中に「やっぱすごいわ!」と改めて感じる部分が多かったので、今回はお話させて頂こうと。
――SDPの結成が1988年、デビュー作『スチャダラ大作戦』は90年のリリース。Rくんは91年生まれだから、生まれる前から活動してるグループということになるね。
R-指定 それもあって、俺とか梅田サイファーの面子にとってSDPといえば“今夜はブギー・バック”以降、“サマージャム’95”や“B-BOYブンガク”とかが入ってる『5th Wheel 2 the Coach』ぐらいからがリスニングの中心だったんですね。
――特にヒップホップヘッズからは『5th~』と『Fun-Key LP』の人気が高いよね。
R-指定 そのあたりは風邪に効いたんですけど、1st『スチャダラ大作戦』、2nd『タワーリングナンセンス』、3rd『WILD FUNCY ALLIANCE』と改めて聴き直したら「こんなに怖いグループだったのか! 全然安心安全じゃない!」と(笑)。
――特に初期はかなり刺々しい内容でもあるよね。
R-指定 それを「尖ってた」みたいな言葉で形容するのは簡単ですけど、SDPは何に対して尖ってて、何に対して怒ってて、何がそんなに恐ろしかったのかを改めて考えてみたいなと。そして直撃世代の高木さんに時代背景も含めて解説してもらうというスタイルで進めていければと思ってます。
――僭越ながら「スチャダラ愛」クルーの一員として参加させて頂きます。
R-指定 まずSDPはどこで結成したんですか?
――渋谷に「桑沢デザイン研究所」という専門学校があるんだけど、そこにANIさんとBOSEさんが通ってたんだよね。
R-指定 MUMMY-Dさんも通った学校ですよね。
――そう。でもDさんは早稲田を出た後に通ったから、年齢は近いけど時期は被ってなくて。で、桑沢の学園祭にライブで出るために、ANIさんの実弟であるSHINCOさんが合流して、スチャダラパーが結成されたと。かなりビースティ・ボーイズに憧れた内容の、要はかなりハチャメチャなライブだったみたい。
R-指定 ビースティは白人のヒップホップグループですよね。
――そしてもともとパンクバンドだった。
R-指定 ロック的な破壊衝動をヒップホップに取り入れて、世の中に中指を立てることでパンクやロックキッズにも受けるという流れは、エミネムにも繋がると思うし、ポップスターになる白人のヒップホップアーティストに脈々と受け継がれてますよね。最近だとリル・ピープ。自殺願望のような自己破壊衝動も含めて、パンク的な側面を感じますね。
――ビースティもSDPも、当然だけど生まれた時からヒップホップがあった世代ではない。だからヒップホップ以前のベースにロックやパンク、他のカルチャーからの影響があって、それを新しいアートフォームだったヒップホップに投影させたという部分は、共通してるのかな。で、SDPは89年に「第2回DJアンダーグラウンドコンテスト」に出演して、“太陽にほえろ!のメインテーマ”をバックトラックを使った“スチャダラパーのテーマpt.1”特別賞を獲得。
R-指定 超有名ドラマのテーマソングを使うなんて、禁じ手中の禁じ手だったわけですよね。
――当時の日本で「ちゃんとヒップホップ」をやるのには、いかに「シリアスに」「海外っぽく」するのかが大事だったと思うんだ。
R-指定 そこで日本人なら誰でも知ってるドラマのテーマ曲と、誰もが知ってる「オイース!」というフレーズを使うというのは……。
――ものすごくショッキングだったんじゃないかな。その部分は今度SDPに伺ってみましょう。
R-指定 アメリカに近づけようと思ってる人たちからしたら真裏のやり方ですよね。
――ただ、時代的にはレア・グルーヴムーブメントが世界中で起きてる最中でもあったから、日本のレア・グルーヴとして『太陽にほえろ!』を選ぶのは実は筋はめちゃくちゃ通ってる。
R-指定 かつ、ニッチやったりレアなとこを掘るのもヒップホップではぶち上がるポイントですけど、一方で超大ネタ使いもぶち上がるじゃないですか。その後者を日本の文脈の中で、日本人としてやったということですよね。
――そのライブにECDが大感動して、デモテープをガンガン配りまくったら、当時のサブカルチャー、ポップカルチャーの媒介者としてトップを走ってた編集者/ライターの川勝正幸さんの目に留まって、更にメディア的にも注目を集めることになるという。
R-指定 だから、デビュー当時からとんでもないサブカル人脈からのバックアップがあるんですよね。方向性は違うけど、Nasが『Illmatic』を出す時に、NY中のプロデューサーが後押ししたかのように、SDPは日本のサブカル勢がこぞって後押ししたというか。
サブカル界隈への求心力
――それを象徴するのが“スチャダラパーのテーマpt.2”のMV。いとうせいこう、岡崎京子と桜沢エリカ、高城剛、YMOの高橋幸宏。そして同時期にデビューした東京スカパラダイスオーケストラにフリッパーズ・ギター……。
R-指定 ジブさんの“真っ昼間”のMVにライムスターが映ってる、LAMP EYE“証言”にKREVAさんが映ってるみたいな。
――その例えは分かりやすい(笑)。他にもたくさん登場してるけど、これだけのメンツがメジャーでもないアーティストのMVに集まるのはすごい。
R-指定 宇多丸さんはこのMVを観てブチ切れたんですよね(笑)。
――ほぼ同世代で、同じように未開拓のジャンルの音楽をやってるグループのMVに、自分も影響受けた当時の『宝島』系文脈のメンツが大挙して登場してたら、本当に気が狂いそうになると思うよ。自分に置き換えたらどうよ?
R-指定 腹立つっすねぇ(笑)。
――インタビューの続きは発売中の「BUBKA2月号」で
聞き手・構成/ 高木“JET”晋一郎
R-指定|1991年大阪府生まれ。中学生の時に日本語ラップと出会い、リリックを書き始める。高校1年生の時に足を踏み入れた梅田サイファー、そしてDJ松永とともに結成したCreepy Nutsのラッパーとして活躍中。バトルMCとしても、2012年からの「UMB」3連覇をはじめ、テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』での2代目ラスボスなど、名実ともに「日本一」の実績を誇っている。また、ニッポン放送『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』のパーソナリティーや、テレビバラエティーやドラマ・映画の出演などの幅広い分野で活躍している。
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