『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』著者・高橋ユキ氏「真意が伝わらないままなのは気の毒」
――世間を騒がせた松山刑務所逃走犯と富田林署逃走犯は、どちらも2018年の出来事。連日、情報番組で取り上げていましたが、特に前者は、まったくテレビで報じていた内容と、脱走犯のリアルが乖離していることに驚きました。
高橋ユキ 松山刑務所逃走犯は、開放的処遇施設と呼ばれる塀のない刑務所……社会に近い環境で更生を図ることを目的としているわけですが、そういった環境下ゆえに受刑者による自治会長やリーダーなどが存在する特殊なルールの中で服役していた。彼は、その処遇や理不尽な扱いを不服に思い脱走し、瀬戸内海の向島に逃げ込む。手記を読むと、開放的処遇施設の改善を訴えていて、彼なりのクーデター的な行為だったことが窺えるんですよね。こういった背景があることを、一部の全国紙は報道したものの、テレビでは報道しなかった。テレビ的には、地味で面白みに欠けるのでしょう。彼がどういう理由で逃げようと思ったのか知らない人が多いんだろうなと思います。
――しかも、島の人々は脱走犯に対して、「元気にしとるんかしら」とか「出てきたら、ご飯でも食べさしてあげるのに、って皆で話していた」など親しみを隠そうとしない。本書を読むと、あの騒動の景色がまったく違って見える。
高橋ユキ 向島の住人たちは、意外にも平和的でした(笑)。むしろ、怒りの矛先をずさんな捜査をする警察に向けているくらい。そういう中で、脱走犯は尾道水道を決死の覚悟で泳ぎ、本州にたどり着くも、最後は広島で捕まってしまう。この騒動を受けて、開放的処遇施設は厳重になり、開放的ではなくなってしまいました。彼の訴えは、むしろ逆の結末を招いてしまったわけで、真意が伝わらないままなのは気の毒でもあるんですよ。
――切なさすら感じます。何年後かに、『ザ! 世界仰天ニュース』で再現ドラマ化されるくらいでしょうから、なぜ彼が逃げたのかを切に知ってほしいなと。警察のマヌケっぷり含めて、脱走の背景にはいろいろなリアルがあると痛感しました。
高橋ユキ きちんとしている警察もいると思うのですが、富田林署はちょっとひどかった(苦笑)。今は改善されていてほしいですが、富田林署逃走犯の脱走は、警察署のミスによって発生した感が否めません。その後、彼は、自転車で全国一周をしているサイクリストに扮して逃げ続ける。まさか、サイクリストを装っていたとは思わなかったから、逮捕されたときは日本中がびっくりしましたよね。
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