【コラム】NMB48、10年半ぶりの新公演で受け継がれた 劇場という「原点」
AKB48グループにとってまぎれもない「原点」である劇場公演。オリジナル新公演実施というハードルの高さは、メンバーのみならずファンもまごつかせてきた。しかし5月14日、NMB48による「天使のユートピア」公演が幕を開いた。果たしてその熱は、グループ全体の活性化につながるのだろうか。
栄から難波へ
今年1月1日、NMB48は「2024新春特別公演」にていくつかの発表をした。10期生オーディションの開催、29thシングルの発売などを告知した後、予想外の発表をした。それは、完全オリジナル公演の実施だった。サウンドプロデュースをCarlos K.(カルロス ケー)が担当し、総合プロデュースは秋元康。すべてが新曲になるという。メンバーは手を叩いて歓喜した。この発表はメンバーにも事前に知らされておらず、スタッフが極秘に進めてきたプロジェクトだったようだ。
NMB48の新オリジナル公演。実現すれば、それは10年半ぶりの快挙となる。10年半前に開始されたのは、言うまでもなくチームN「ここにだって天使はいる」公演だ。通称「ここ天」は2013年11月19日に初日を迎えた。現在ではHKT48が上演している。
嬉しい発表があったとはいえ、AKB48グループのファンは、新オリジナル公演の実施に懐疑的だ。何度も何度も初日の延期を経験してきているし、実施されなかった例だって何度もあるからだ。眉唾どころか、端から信じていないというファンもいるだろう。2005年、そもそもAKB48の劇場デビューは一週間延期した。そんなところからスタートしているのだから、信じてくれと言われても土台無理な話だ。「ここ天」も5回の延期を重ねて、ようやく初日にこぎつけた過去がある。
ところが、そんな前例を覆したグループがある。SKE48だ。
2年前の5月、SKE48はTeam Sの新オリジナル公演「愛を君に、愛を僕に」を公約通りにスタートさせた。同年12月にはTeam KⅡ、昨年7月にはTeam Eの新オリジナル公演を予告していた日程をずらすことなく始めた。
この事実は、国内各48グループのスタッフ、メンバー、ファンに少なからず衝撃を与えた。「やればできるじゃん」。誰もがそう感じたはずだ。
SKE48は楽曲の制作を秋元康ではなく、他のクリエーターに依頼している。是が非でも新オリジナル公演を始めるんだという強固な意志のもと動き始め、3つのプロジェクトを断行した。
数年前の分社化以後、国内6グループはそれぞれが独自路線を歩み始めた。合同のコンサートなどは開催されなくなり、唯一「AKB48グループ歌唱力№1決定戦」で共演するにとどまっている。この流れにより、ファンも自分の推しグループのみをチェックするようになり、他のグループへの関心はどんどん減っていった。推しているグループ以外の最新シングルのセンターを知らないというファンは少なくないだろう。
そんな状況にあっても、新オリジナル公演の実施というニュースはそれなりのインパクトをもって国内を駆け巡った。NMB48も刺激を受けたに違いない。
分社化したといっても、グループ間の横の連携は健在だったりもする。NMB48のスタッフはどのようにオリジナル公演をスタートさせたのか、SKE48に連絡を取ったと聞いている。
この数年のNMB48は、既存の楽曲を組み合わせた公演を実施することが多かった。セットリストを作成する際、自身のチームやメンバーの状況やキャラクターに近い曲を集めることになるわけだが、あくまで「近い」曲でしかなく、ピタリと合致する曲があるわけでもない。
オリジナル公演のメリットは、そのメンバーの、あるいはそのチームの現状や個々の特徴に沿った曲が届くことだ。メンバーもそのほうが気持ちが乗りやすく、パフォーマンスしやすいだろう。かつ、魅力が引き出されやすい。自分たちの立ち位置と自分たちの衣装が手に入れば、公演に力も入る。
小嶋花梨は「現在の自分たちに合っている曲が多かったです。それは今まで一度も経験したことはありませんでした。この曲たちが未来へと残っていくことも楽しみにしています」と語っている。泉綾乃は「自分たちに向けて書いてくださった曲ばかりなので、心に刺さる歌詞が多いんです」と話し、気持ちの面で変化があったことを認めている。
自分たちの推しが輝けば、観る側もコールに一層力が入るというもの。新オリジナル公演にはいいことしかないのだ。
しかしながら、オリジナル公演をどう受け止めるかに関しては、メンバーによってそれぞれだった。キャリアが違うとオリジナル公演をもらえる意味も違ってくる。5期生やドラフト3期生といった、NMB48の中心メンバーに「ここ天」のオリジナルメンバーは誰もいない。2期生の石田優美ですらアンダーである。10年も経てば、人は過去を忘れていく。オリジナル公演をもらえる喜びを伝える者がNMB48には最早いない。そうなると、オリジナル公演を欲する希望のかけらさえメンバーの胸から消えていく。消えていたものが見えたから、発表を聞いたメンバーは手を叩いて喜んだのだ。
文/犬飼華