吉田豪インタビュー、岡崎体育『紅白』につながるならどんなことでもやる
吉田豪が岡崎体育にインタビューを実施。抜群の作曲センスで音楽アーティストとしてさいたまスーパーアリーナにも立ち、ドラマなどにも出演、そしてSNSも盛り上げる彼の真髄に迫った。
火の点け方を学んだ
―― 岡崎さんには感謝の気持ちがまずあるというか、私立恵比寿中学に提供してくれた楽曲『サドンデス』(注1)が本当に素晴らしかったじゃないですか。
岡崎体育 ありがとうございます!
――ネタと泣きのバランスがまた絶妙で。
岡崎体育 そうですね、あとマイナーチェンジが利くので、ライブによって誰がダンスサドンデスで勝ち残るかも変えられるから、ファンの人も楽しんでくれてる実感はありますね。
――でも、メンバーの増減に合わせて歌詞もいろいろ変えなきゃいけない問題もあって。
岡崎体育 そうですね、「残り何名」っていう声とかもいまだに録り直したりするんで、その分のギャラは欲しいなとは思ってますけど。
――ダハハハハ! そこは変わらず(笑)。
岡崎体育 変わらず無償で提供してます。
―― 最近の岡崎さんでまず気になったのが、次のツアー(注2)のチケットは売れつつあります?
岡崎体育 ちょっとずつではあるんですけど。まあちょっとずつ売れてはいますね。SNSで「チケットが売れてない」と言うことでファンの人以外でも気になってる感じの人はいるので、その人の背中を押すためにもチマチマ誘導した結果、徐々には伸びてきてますね。
――ホントに画期的だと思うんですよ、ああいう無茶苦茶かつ自発的な話題作り(笑)。
岡崎体育 ハハハハ! そうですね。
―― チケットが全然売れてないと勝手に騒ぎ立てることで宣伝にしていくわけですよね。
岡崎体育 キャラクター的にふつうのアーティストができないことができるので、いまの自分の立ち位置を客観的に見ながらどう動くのが一番有効的かなっていうのは考えてますね。
―― 音楽不況で宣伝費があまりかけられなくなった時代に、こうやって無理やりネットニュースにしていくのはさすがだなと思って。
岡崎体育 そこですね。レコード会社も頑張って宣伝してくれてるんですけど、そこだけでは伸びない部分はアーティストが補っていかなきゃいけない時代だし、曲作りとかライブの準備に集中できるのが一番いいんですけど、券売的にもパンパンの状態でライブできたほうが精神衛生的にもいいので。
――ちゃんとニュースになりましたからね。
岡崎体育 ありがたいです、ホントに。ニュースにしてもらうとそれだけ人の目につくので。
―― 岡崎体育似の男とお見合いをさせられたって女性のツイートをわざわざ拾って、「見た目のことですぐこうやって尊厳のない扱われ方するけど、元気にチケット売ってますんで皆さんライブ遊びに来てください!」って宣伝に持っていくのもどうかしてましたね。
岡崎体育 去年も「1000円カットで変な髪型になった」っていうのがニュースになったんですよ。ちょうどあのときもチケット売れてない時期で、その髪型見たさにチケットを買ってくれた人もやっぱりいて。
――変な髪型新規が!
岡崎体育 そう、髪型新規がいたんで。捉えようによっては燃えてるように見えてるかもしれないけど、使えるものはなんでも使うぞって気持ちでやってますね。もう慣れっこっちゃ慣れっこなんで。だから炎上してるつもりは全然なかったし、周りが勝手に燃えてるだけのように自分は感じてますけどね。
――ちゃんとした炎上はほぼないですよね。ファンクラブにポイント制を導入しようとして騒動になったときぐらいって認識です。
岡崎体育 そうです、それくらいですかね。いろいろ渦中にいるときの立ち回りはこの業界に入っていろいろ学んだので、そこまでめちゃくちゃヘマすることはないかなと思います。
――そういうSNSの使い方も含めて、ものすごく戦略的な人っていう印象があって。でも今回、いろんな記事を掘りまくってみた結果、戦略的なのは事実だけどそれだけじゃないというか。ただクレバーにうまくやってる人っていうわけではなくて、ものすごく悩んでもいると思いました。
岡崎体育 それはありますね。戦略的にやるだけではミュージシャンが持つ宗教性みたいなものって生まれにくいし、どうしてもファンの人もそこに気づきが生まれてくると思うので、どこかしら自分のアイデンティティというか、泥くさいところも出していってバランスを取るじゃないですけど、アーティスト・岡崎体育としての業界での立ち回りみたいなものは客観視しながら動いてますね。
――そこなんですよ。インタビューを読んで思ったのが客観視しすぎなんです(笑)。
岡崎体育 ハハハハハ! アーティストとしての自覚が限りなく少ないというか。自分のことをそんな高尚なものだと思ってないのでアーティストを気取ることもないし、単純に音楽は自分の自己肯定感を高めるためだけにやってることなので。でも、A&Rとかもやってみたいなと思ったりするので、自分だけじゃなくて誰かのプロデュースだったりディレクションにも興味があるし、将来的にはそういうのも見据えていきたいなと思ってます。
――実際、自分という素材でこれくらいまで結果を出したのは十分な実績ですからね。
岡崎体育 そうですね、ビジュアルがいいわけでもないし歌唱力が高いわけでもないんですけど、現状で満足いくセールスは出せてるので自信にはつながってますね。
――その客観性ですよね。日本もだいぶルッキズム的なものに対して批判的になってきて世の中変わってきたとは思うんですけど、音楽の世界にはまだ相当残ってると思ってて。
岡崎体育 そうですね、やっぱりみんなもきれいなもの、美しいものを見たいし、そういうものに偶像性が出てくるのは昔から変わらないことなので。もちろん音楽やるうえでビジュアルとか見た目がいいほうが有利なこともたしかなんですけど、そこを求めてない畑の人もいるわけで。そういう人たちをターゲットに自分が食っていければなと思ってます。
――最初から自分という素材でどう戦うかを考えてたわけですよね。ルックスでアドバンテージが持てないなかでの戦略を考えて。
岡崎体育 そうですね、そのことは岡田斗司夫(注3)さんにも言われました。
――ダハハハハ! とりあえず岡田斗司夫には言われたくないですよね(笑)。
岡崎体育 ハハハハハ! でも、「ビジュアルないなかでようやってるな」っていう感じで誉めてもらえたのでうれしかったです。
――就職して即退職したりで、27歳までにメジャーデビューするという期限が限られてたから策を練るしかなかったという話はよくされてますど、そこでまず考えたのがバズることで。
岡崎体育 デビューするにあたってインディーズのときにライブハウスでやってた曲を詰め込んだアルバムを名刺代わりにソニーからデビューという形だったんですけど、インパクトがもうちょっと欲しかったし、既存曲だけだったら新しいファンの人もつかないかもしれないし、インディーズ時代に応援してくれてた人にも全部聴いたことあるなって思われるのは嫌やったんで。そのときに作ったのが『MUSIC VIDEO』(注4)って曲だったんです。
――МVあるあるを歌詞でも映像でも再現しまくって、いきなり話題になりました。
岡崎体育 すごい批判性が高いし、揶揄してるように受け取られましたけど、単純にひとつの作品として納得いくものができたので、周りの反響も含め自分の満足度も含め、あれはいい出し方だったなとは思ってますね。
――ただし、予想以上にバズッた結果、ある種の縛りも出てくるわけじゃないですか。
岡崎体育 そうですね、その後1〜2年は「あるあるで何かひと言お願いします」とか。
――RG(注5)みたいな扱いになって(笑)。
岡崎体育 はい、それは多かったですね。もちろんそこは仕方ないことだと思うし、割り切ってやってはいましたけど。それに嫌気がさしてたのは事実だったんで、早く二発目三発目を当てられたらなとは思ってましたね。
――どのレベルまでイジッていいかとか考えました? 要は悪意の匙加減というか。
岡崎体育 考えましたね。固有名詞は出さないっていうひとつのルールはちゃんと設けて。それが回避法というか、あきらかにこれをオマージュしてるなっていうのはわかるけど、「いやべつに言ってないですけどね」っていう逃げ道も作って。でも、そうやっていくなかで、固有名詞が出てきたほうが漫才とかでもおもしろいし、それは間違いないことなんですけど、そうじゃなくてフワッとしたもので笑いを取れたりウケたりするのはそこの縛りからいろいろ生まれたものでもあるし。それを考えてるときは楽しかったです。
――その後、共演できなくなるような人がいきなり増えても困るし、イジられてる側がおもしろがってくれる匙加減を考えながら。
岡崎体育 たしかに。最初の頃は特定の人というか、「これのオマージュやろ!」って呼ばれた先の人がすごい怒ってたり、それで燃えてたときもあって。こうするとその界隈のファンの人って怒るんだなとか、火ってこういうふうに点いちゃうんだなってこの8年間で学んできたし、さっき豪さんがおっしゃったように、いまは変な燃え方はしてないんで。
取材・文/吉田豪
岡崎体育プロフィール
1989年、京都府宇治市育ち。2016年4月公開の『MUSIC VIDEO』のMVが大きな話題を呼び、同年5月にメジャーデビューアルバム『BASIN TECHNO』をリリース。19年にはさいたまスーパーアリーナで単独コンサートを行う。CMやドラマ、映画出演などマルチな活動な活動をしている。最新EP『Suplex』を24年3月に配信。「岡崎体育 Zepp Tour 2024」開催中(チケットぴあ、イープラス、ローソンチケットにて、チケット一般発売中)。
記事注釈
(注1)~(注5)
(注1) 2016年リリースの私立恵比寿中学ベストアルバム『「中辛」~エビ中のワクワクベスト~』に収録。18年リリースの岡崎のタイアップ集『OTWORKS』にカバーが収録。
(注2) 4月14日の横浜公演を皮切りに始まった「岡崎体育 Zepp Tour 2024」。
(注3) 58年生まれのプロデューサー、評論家。84年にアニメ制作会社ガイナックスを設立した一人。通称「オタキング」。
(注4) 16年4月にMVを公開。監督・撮影・編集・照明・振付を寿司くん(ヤバTのこやまたくや)が務める。1stアルバム『BASIN TECHNO』に収録。
(注5) 74年生まれのお笑いタレント。HGとともに97年にレイザーラモンを結成。「◯◯あるある」のほかに、ものまねレパートリーも豊富。