2024-03-03 10:00

吉田豪×中井美穂、自称“中二病”のサブカル少女がバブル絶頂のTV業界へ

吉田豪と中井美穂の特別対談
吉田豪と中井美穂の特別対談
撮影=持田薫

先日放送された『クイズ!脳ベルSHOW』にて、中井美穂・吉田豪・マキ上田・藤波辰爾という異色の並びで話題となった2人の対談がスピード実現。昭和~平成~令和と、激動のテレビ界を駆け抜けた日々が生んだ数々の秘話をお届け。

白塗りに憧れて

吉田豪 先日、『クイズ!脳ベルSHOW』で共演して以来の再会なんですけど、あのとき何となくその場のノリで「吉田さんが中井さんをインタビューしたらいいじゃないですか」って司会の岡田(圭右)さんに言われて。

中井美穂 すごい興味があったんですよ。うちの事務所の社長とかには「えっ? BUBKAってどういう雑誌か知ってるの?」って言われましたけど(笑)。

吉田豪 ボクも中井さんに興味があって。実は以前、TBSラジオの『爆笑問題の日曜サンデー』に出たとき、昭和の新日本プロレスを観に行ってたとか、ラジオ好きで渋谷陽一のラジオを聞いてたとかって話をしてたじゃないですか。

中井美穂 そうそう、憧れは渋谷陽一さんでしたから。ロッキング・オンとかに就職したいと思ってました。

吉田豪 だから「そっちの人だったんだ!」っていう衝撃があって。

中井美穂 サブカルの人だったんです(笑)。

吉田豪 『脳ベルSHOW』でも初代タイガーマスクのデビュー戦や前田日明の凱旋帰国を蔵前国技館で生観戦したって話をしてましたよね。

中井美穂 何でプロレス見るようになったかっていうと、きっかけは古舘伊知郎さんですね。

吉田豪 古舘さんの実況に衝撃を受けて。

中井美穂 古舘さん見たさにプロレス会場に行って「古舘伊知郎だ!」って言ってたっていう。

吉田豪 ところが、現場では古舘さんの実況の声は聞こえなくて。

中井美穂 そうなんです(笑)。「なんだ、全然わかんないじゃん。これならテレビで見たほうがいい」と思いました。結局は古舘さんから入っていてプロレスの真髄とかには全く触れてないですね。それでも、あの頃のプロレスは面白かったです。古舘さんに感謝ですよ。

吉田豪 しかも当時、『フルコンタクトKARATE』でも連載してたんですよね。

中井美穂 すごい昔ですよね。なんで連載してたのか、自分でもちょっと意味がわからない。

吉田豪 「中井美穂アナのプロレスブレイク」ってタイトルでやってましたよ(笑)。プロレス好きってことが当時はそれなりに知られてたんですか?

中井美穂 たぶん1回聞いた人は衝撃で覚えてたのかも。

吉田豪 中井さんに関する資料をあさってると、子供の頃は無趣味でテンションが低かったみたいな話がよく出てくるんですよ。

中井美穂 テンション低いです(笑)。

吉田豪 あまり何かに没頭したことない的なことだったんですけど、でも渋谷陽一があり、古舘伊知郎がありなわけですよね。

中井美穂 そう言われてみればそうですけど、自分の体を使って何かを必死にやるとかっていうことがない。人様がしゃべってるところとか、動いてるところとか、そういうものを自分は座ってただ見て楽しむっていう。

吉田豪 当時はラジオ好きだったわけですよね。

中井美穂 元々はラジオのアナウンサー、DJになりたかったんですよ。AMは聞かなくてFMを聞くタイプでNHK-FMをずっと聞いてました。特に『軽音楽をあなたに』とか『サウンドストリート』はよく聞いていました。あとはラジオ関東(現ラジオ日本)で放送していた『全米トップ40』は湯川れいこさんがパーソナリティで、私は毎回1位~40位までノートに付けてました。雑誌は東郷かおる子さんが編集長だった時代の『ミュージックライフ』とか『ロックショウ』そして『ロッキングオン』っていう流れですね。ミーハーです。

吉田豪 ミュージシャンでは誰が好きだったんですか?

中井美穂 一番好きだったのはキッスとクイーンとエアロスミスの御三家ですね。とりわけキッスが好きでした。いま歌舞伎を見に行くと、もれなくキッスのことも思い出します。ジーン・シモンズとかを見て育ったので(笑)。

吉田豪 「自分は白塗りや隈取が好きなんだな」って(笑)。

中井美穂 特に私はエース・フレイリーが好きだった。ちょっと中性的なキャラクターっていうのがすごい好きで。グラムロックとかも好きだったので、デヴィッド・ボウイとかも。その後はスティングですね

吉田豪 急に飛びますね(笑)。世代的にJAPANとかには行ってないんですか?

中井美穂 もちろん行きました! デヴィッド・シルヴィアンとかスティーヴ・ジャンセンとか好きでしたね。あとは本田恭章っていう人が……。

吉田豪 はいはい(笑)、JAPANを見に行ったときにスカウトされたって伝説の。

中井美穂 本田恭章さんもファンで写真集とか買ってました。今は何してるんですかね。

吉田豪 結構ロックな方向でまだ活動してますよ。

中井美穂 当時の私みたいな追っかけの人が、いるんでしょうね。(吉田に対して)なんでそんな感じなんでしたっけ?

吉田豪 何がですか?(笑)

中井美穂 だって年齢的には私とそこまで近いわけじゃないですよね。

吉田豪 中井さんよりちょい下ですけど、2歳上の姉がいたので。

中井美穂 ああ、やっぱりお姉さんですか。お姉さんとお友達になれそう。自分のことをもっと紐解いていくと、漫画家の青池保子先生が好きっていうのがあるんですよ

吉田豪 『エロイカより愛をこめて』の。

中井美穂 青池先生の『イブの息子たち』っていう漫画が、とにかく好きで。いまだに読みますもんね。いま読んでも素晴らしいんですよ。歴史上の人物たちや、エマーソン・レイク・アンド・パーマーのメンバーと思われる人たちも出てきて。

吉田豪 明らかにロックミュージシャンみたいな長髪男子ばかりが出てきて。

中井美穂 恋愛ものの漫画より、そういうちょっとおかしな人たちがいっぱい出てくるっていうものか、あとは『ガラスの仮面』とか『SWAN』とか、演劇やバレエとかに特化してるのが好き。子供の頃は、女の子っぽいっていうことを否定するタイプだったんです。

吉田豪 ちなみにAMを否定してたのは、AMがダサかったからですか?

中井美穂 人情とか根性とか汗とか涙が嫌いだったので。

吉田豪 ああ、あの頃のAMは「青春」って感じでしたからね。

中井美穂 そういうのが、眩しすぎて無理。嫌いじゃないんですよ。ものすごい憧れなんだけど、自分はそっち側の人間ではない。

吉田豪 もっとジメジメしたところの人間で。

中井美穂 そうそう(笑)。向こうが光なら私は闇に生きるみたいな。

吉田豪 今で言う中二病的なタイプだった?

中井美穂 客観的に見るとそういうタイプですね。そうなった理由はすごい明らかで、弟が生まれたことなんですよ。6つ下に弟がいるんですけど、男の子が生まれたときに家族全員がすごい盛り上がったんです。祖母は昔の人だから、「女の人は男を産んで一人前」的なプレッシャーを母親にかけてたっぽくて、弟が生まれたときにみんなが「でかした!」「やった!」と。

吉田豪 自分がいたはずなのに、「ようやく生まれた」っていう雰囲気があった。

中井美穂 何かそれを見た瞬間、ザーッて冷めて。「え、私はなんですか。全然歓迎されてなかったってこと?」ってなっちゃって。そこからですかね、曲がったのは。男だとただ生まれただけでこんなに喜ばれて。私のときも嬉しかっただろうけれども、「女か」っていうのがどこかにあったのではないだろうかって、子供心にちょっと思いました。

吉田豪 まだまだ昭和だったんですね。

中井美穂 うちは普通のサラリーマン家庭だったんですけど。

吉田豪 お父さんは日本航空の人で、だから中井さんもロサンゼルス生まれなんですよね。

中井美穂 でも、普通の一般社員でしたから。うちみたいな普通の家ですらそういうことがあるんだから、ましてやその跡継ぎが必要と思われてるお家のお嫁さんだとさぞや大変なんだろうなって思って。

吉田豪 それこそ歌舞伎とかもそうだし。

中井美穂 はい。とにかく、そういった「男は女より偉い」みたいな価値観を子供の頃に浴びたことへの反抗心はあって、小学校の高学年とかなるともうジーパンしか履かない。ジーパンに青いウインドブレーカー。中学校に入ったら男の子に「生徒手帳交換して」って言って、青い生徒手帳を持つっていう。赤なんかいらない! 私物は全部青。わかりやすい中二病でした(笑)。

吉田豪 中学から演劇を始めたんですよね。

中井美穂 当時は必ずクラブ活動をやらなければいけないっていう時代だったので、消去法で。

吉田豪 で、先輩に軽部(真一)アナがいた。

中井美穂 二つ上に軽部さんがいて、学校のカリスマスターでした。今でも連綿と続いている演劇発表会があって、それも楽しかった。あんまりちゃんと覚えてないんですけど。

吉田豪 覚えているのは、客席から野次を飛ばす人がいたこと。

中井美穂 そうそうそう。私が学校に入る前の発表会のもので、テープが残ってて。普通に演劇が始まってるんだけど、客席から野次を飛ばす人がいて。「そんなこと言うんなら上がってこいよ」って言われてその人が上がって行くのも含めて劇っていう。その客席から野次を飛ばしたのが軽部さんだったんです。すごいなあ、かっこいいって。まさか大人になって同じ職場で働くことになろうとは思いもしなかった。

中井美穂プロフィール

なかい・みほ=1965年3月11日、ロサンゼルスに生まれ、東京都で育つ。フジテレビ入社後、アナウンサーとして「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」など多くの番組に出演し人気を集める。退社後は2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務め、現在では映画・演劇のコラム、動画配信番組、イベントの司会、クラシックコンサートのナビゲーター、朗読など幅広く活躍している。

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