映画『アイアンクロー』公開記念、呪われた一家の生き証人が米国での生活を振り返る
映画『アイアンクロー』の舞台となった80年代前半のダラスで大活躍したのが、
ザ・グレート・カブキ。映画が公開されてすぐ見に行ったというカブキに、映画の感想と実際のエリック一家との違いについて語ってもらった。
スパルタに大喜び
――カブキさんは『アイアンクロー』を映画館まで見に行かれたそうですね?
ザ・グレート・カブキ 行った行った。やっぱり自分がいた時代の話だから興味があってね。
――率直な感想はいかがでした?
ザ・グレート・カブキ 最高だったね。
――おぉ、そうですか!
ザ・グレート・カブキ 役者もなりきってるっていうか。「ああ、こうだったなあ」ってね。
――あの時代を思い出しました?
ザ・グレート・カブキ 思い出した。だからケビンたちがフリッツの親父にリングでプロ
レスを教わってるシーンがあったじゃない。本当はあそこは全部俺が入ってるの。
――実際の80年代前半のダラスでは、あそこはカブキさんが教えてたんです
ね。
ザ・グレート・カブキ フリッツの親父にケビン、デビッド、ケリーなんかを教えてくれって言われてね。マイクはまだ小さかったからやってなかったけど、あの3人は試合が始まる前、早くに会場に呼び出して練習する。俺は日本式の厳しい教え方でボッコボコやるから、通路の奥で見てたフリッツの親父がよろこんじゃってさ。いつもタバコを吸いながらククククッて笑いながら見てたよ。それで週末にギャラを取りにいくと、「ソンソン、これボーナスだ」って、ギャラ以外にボーナスを必ず出してくれてね。
――カブキさんは「ソンソン」って呼ばれてたんですね。どういう意味なんですか?
ザ・グレート・カブキ 意味はとくにないんだよ。メイクをしてない時に人がいるとカブキって言えないから「ソンソン」って。
――そうなんですね。カブキさんはエリック兄弟と試合でもよく当たってたんですよね?
ザ・グレート・カブキ 毎日だよ。
――試合で当たるのが指導の一環みたいな感じですか?
ザ・グレート・カブキ そう。だから、こっちもバッチンバッチンいったからね。そうするとお客は沸くし、息子たちに厳しくするとフリッツの親父もよろこぶから。
――当時対戦したケビン、デビッド、ケリーの印象はいかがですか?
ザ・グレート・カブキ やっぱり、いちばんうまいのがデビッド。身長があって、オーソドックスなレスリングがしっかりできて、いいレスラーになると思ってたんだけどね。
―― 亡くなる前は次期NWA世界ヘビー級王者最有力候補と呼ばれていたんですよね。
ザ・グレート・カブキ ケリーもうまかった。いちばんいい身体をしていて頭もスマートだったね。で、いちばん上のケビンがちょっとしょっぱかった(笑)。
――そうなんですか(笑)。映画でもケビンはすごく真面目にトレーニングするけど、マイクアピールなどエンターテインメント性の部分が苦手で、エンタメ的な才能があるデビッドと兄弟の序列が逆転したような描かれかたをしてましたよね。
ザ・グレート・カブキ そんな感じだね。ケビンも動きはよくて馬力もあるんだけど、不器用でガチガチに来るからさ。その代わりこっちもガチガチでいって、おもいっきりバコーンと蹴ったりしてね(笑)。楽しかったですよ。
――ダラスは、カブキさんにとってはすごくいいところだったんですね。
ザ・グレート・カブキ ダラスはあの時代がいちばん良かったんじゃないかな。自分が(1980年に)入ってからフリッツの引退シリーズが始まって、時を同じくしてケビン、デビッド、ケリーたちも人気が出てきて、エリック親子両方の活躍でお客がどんどん入るようになった。毎回、満員続きだもん。
――映画では80年代初頭、フリッツはすでに引退しているかのように描かれていましたけど、実際は現役末期だったんですよね。
ザ・グレート・カブキ 毎回出るわけじゃないんだけど、ビッグマッチになるとフリッツが出てくるわけ。自分なんかも何回かやったよ。
――映画では、火事で消失したあの時代の常打ち会場であるスポータトリアムもわざざ作り直して撮影してました。
ザ・グレート・カブキ あれ、よくできてるなと思った。雰囲気も再現されていたよ。試合のシーンもあったけれど、なんか自分がやってるような気持ちになったよ(笑)。
――試合シーンはどうでした? チャボ・ゲレロ・ジュニアが全部指導したらしいんですけど。
ザ・グレート・カブキ あれ、素人にしてはうまいよ。チャボがちゃんと教えたんだろうね。試合はよかったよ。
――エリック兄弟だけじゃなく、テリー・ゴーディやファビュラス・フリーバース、ブルーザー・ブロディとか、当時ダラスにいたレスラーもけっこう似てましたよね。
ザ・グレート・カブキ よく似てるの連れてきたよね。
――フリッツ・フォン・エリックもかなり似てるなって思いました。
ザ・グレート・カブキ フリッツの親父も似ていたけど、本物はもっと怖いよ(笑)。
――もっと怖い(笑)。
ザ・グレート・カブキ (お店に飾ってあるフリッツの写真を指差して)あの顔だもん(笑)。
――アメリカの関係者に『アイアンクロー』の感想を聞くと、NWA世界ヘビー級チャンピオンのハーリー・レイスとリック・フレアーは、見た目は似てるけど、映画では王者としての風格が感じられないっていう意見が多いらしいんですよ。
ザ・グレート・カブキ そうだろうね。レスラーが醸し出すムードっていうのは、長年リングに上がることで身につくものだから。レイスやフレアーなんかは、やっぱりそういうのを持っていたし、フリッツの親父なんか、見るからにすごいじゃない。あれは役者さんが真似できるものじゃない。
――それはフリッツと直に接したカブキさんだからこそ言えることですね。
ザ・グレート・カブキ あと映画と実物のフリッツでいちばんの違いは、実際のフリッツの親父はずっとタバコ吸ってるんだよ。もういっときもタバコを手放さないから。タバコ吸って短くなると、もう次のタバコを継ぎ足して吸い始めるから、タバコを切らすことがないの。もう一日中ずっと吸いっぱなし。
――そんなすごいチェーンスモーカーだったんですか(笑)。
ザ・グレート・カブキ だから映画でもずっとタバコを吸ってたら、もっとフリッツの親父に似てただろうね(笑)。フリッツの親父はいいプロモーターだったよ。ケビンたちのコーチをやるようになったら、俺のこともファミリー扱いしてくれてね。いろんな面でテイクケアしてくれたから。
ザ・グレート・カブキプロフィール
1948年9月8日、宮崎県出身。64年、日本プロレスに入門、同年10月宮城・石巻市での山本小鉄戦でデビューする。81年に遠征先のアメリカで『ザ・グレート・カブキ』として大ブレイク。83年ジャイアント馬場に呼び戻され凱旋帰国し、『毒霧』と『カブキ』は社会的ブームとなる。98年9月7日、IWAジャパンのリングで現役を引退。2002年10月に復帰、17年12月、後楽園ホールでの
『KABUKI THE FINAL』(プロレスリング・ノア)で正式引退。