2022-09-02 11:10

ハチミツ二郎×掟ポルシェ対談…孤高のショーストッパーの生還

インディーズ芸人の限界

掟ポルシェ さっきも言いましたけど、俺が二郎さんと出会ったのが浅草お兄さん会で。そこで東京ダイナマイトは毎回上位を争っていて、めちゃくちゃ面白かった。二郎さんと曽根さんのコンビというのが最初の印象だったんですけど、本を読むと意外と曽根さんがあっさり辞めてるんですよね。

ハチミツ二郎 あいつ、スカウトのバイトやってたんですよ。『新宿スワン』ってスカウトの漫画があるけど、ああいうのをやってたんです。曽根は「スカウトはみんな月に80万ぐらいもらってる。芸人なんか10万も稼げねえじゃねえか」って金銭的な文句をずっと言ってて。俺も曽根も東京のNSC(吉本興業の養成所)の一期生で。同期が500人ぐらいで、みんなダウンタウンやとんねるずを見て入ってるから、すぐ売れると思ってるヤツばっかりでしたね。

掟ポルシェ みんな自信もあるだろうし。

ハチミツ二郎 だから、「こんなに金にならない時期があるのか」ってことで、あっという間にほとんどの人間が辞めてったんです。曽根もそんな中の一人でしたね。『ボキャブラ(天国)』ブームは終わってたけど、もうちょっと待てば『(爆笑)オンエアバトル』とか始まって。『オンバト』には同じライブに出てたメンバーも出るようになって。『M-1グランプリ』(以下、M-1)も始まったけど、曽根はスカウトの道に夢を持って離れていって。

掟ポルシェ まあ、稼げるかどうかは重要ですもんね。当時、俺はすごく借金があって債務整理を始めたばっかりだったんですけど、二郎さんが「俺も借金してますよ」って話をして。「やっぱり芸人は、借金の一つもしないと」って感じでしたね(笑)。

ハチミツ二郎 今、「 過払い金過払い金」ってCМとかでやってますけど、俺は過払い金しか払ってないですよ(笑)。○ルイなんて何倍払ったか分からない。○ルイのカードは高校生から作れるから、12年ぐらい払ってたんですよ。多分、今の制度だと何百万か戻ってきたと思います。だけど、自分が売れたときに一括返済したっていうのをボキャブラ世代の人から聞いて。みんな、借金が300~400万ぐらいあったけど、売れたときに全額返したって話で、それがちょっと夢だったというか。だから過払い金で金が戻ってきたヤツよりは、ちょっと根性が違うだろうと信じてやってます。お前ら若手の10倍過払い金払ってるんだぞって(笑)。

掟ポルシェ 俺も弁護士入れて債務整理しましたけど、○ルイが一番まとめやすかったです(笑)。

ハチミツ二郎 うちの相方なんて聞いたこともないような会社に借りてましたよ。有名な消費者金融の名前を二つ足したようなパチモノっぽい名前の。

掟ポルシェ 明らかにトイチ(10日で1割の高利率)で。

ハチミツ二郎 トイチです。西口プロレス(ハチミツ二郎も所属していたお笑い芸人たちのプロレス団体)のヤツらから債務整理のことを聞いて、相方は弁護士のところに飛んでいった。でも、その弁護士に金を払うとは思ってなかった(笑)。

掟ポルシェ 弁護士費用がいりますからね。

ハチミツ二郎 相方は弁護士費用を払えなくて自己破産したんですよ。

掟ポルシェ 後で成功報酬として分割で支払う形の優しいところもありますけどね。でも、トンパチ・プロ(ハチミツ二郎が率いたインディーズお笑い事務所)では自分でライブを主催して、300~500人ぐらいの会場も常に満杯だったじゃないですか。羽振りはよかったんですか?

ハチミツ二郎 いや、よくはなかったですね。UWFインターみたいに、会場を全部押さえてたんです。いろんな会場を先に先に借りてたんです。だから儲かったことはないんですけど、1回鬼怒川温泉にバス借りてみんなで行きました。その後に業績が落ちたんで、あれが会社が傾いた原因でしたね(笑)。

掟ポルシェ 鬼怒川温泉が一番最後の豪遊。舛添要一がホテル三日月に家族旅行みたいな(笑)。

ハチミツ二郎 WJ(プロレス)の屋形船みたいなもので、旅行に行ってる場合じゃなかった。

掟ポルシェ トンパチ・プロは客として見てて、すごく面白かったですよ。インディーズ芸人が質の高いライブをやってて客も集まってましたし。

ハチミツ二郎 音楽のインディーズを見ながら「お笑いでもインディーズ」って思ってましたけど、あの後にはインディーズじゃなくて地下芸人と呼ばれ始めるようになって。あの辺で「1回メジャーに行かないと」って思ったんです。本にも書きましたけど、インディーズでやってると「このネタ見せに来てください」とか「こういうオーディションがあります」とかの連絡がないんですよ。自分から問い合わせてもインディーズだと相手にしてくれない。

掟ポルシェ まずメジャーどころの事務所に声をかけてって、そこに空きでもでないかぎりインディーズには出番が回ってこない。

ハチミツ二郎 本当にそうです。西口プロレスもやっぱりオーディションとかは自分で探さないといけなくて、西口プロレスの社長がある芸能事務所の運転手をやってた人だったから、名刺の裏にその事務所の名前を入れていいかって聞いたら、許可が出て。その名刺を配り始めたら、いきなり(アントニオ)小猪木が「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」(『とんねるずのみなさんのおかげでした』内の人気コーナー)で優勝したりと、如実に成果が出てましたね(笑)。

掟ポルシェ そんなに即効性が(笑)。あの頃はトンパチ・プロはピン芸人の集まりで集団コントをやっていて。

ハチミツ二郎 ピン芸人が多かったんです。俺も相方の曽根が辞めちゃって、正式なコンビじゃなかったし。で、ライブの時間を持たせるために、1人で2ユニットはやるみたいな感じにしたんです。

掟ポルシェ その頃、鳥肌実さんもトンパチ・プロのライブに出てて。鳥肌さんはすごく売れてきて、単独公演をNKホールとかでやったじゃないですか。

ハチミツ二郎 代々木第一体育館でもやってました。

掟ポルシェ お笑い芸人の中で、個人で一番デカいイベントをやった人みたいになって。その頃、鳥肌さんのネタをずっと書いてた中学からの同級生とかいう人が飛んじゃったんですよね。それで二郎さんたちが一時、鳥肌さんのネタを書いたり。

ハチミツ二郎 俺とか居島一平(米粒写経のボケ担当)とか。鳥肌さんが催促してくるんです、「ちょっとぉ、何か、ありませんかねえ」って。だから、みんなでハガキ職人みたいにネタを書いて。会場の後ろのほうから鳥肌さんのライブを見て、「あ、俺のやつだ」って。

掟ポルシェ 「採用された」って(笑)。

ハチミツ二郎 あの頃の鳥肌さんはインディーズを極めたというか。もともとは日本武道館でやろうとしていて会場を押さえてたら、鳥肌さんの芸風とかがバレて「こいつはとんでもないヤツだ」って武道館からキャンセルをくらって。そしたら代々木第一でやれるってなって、結局1万2000人ぐらい来たから、武道館より人が来ちゃった。『クイックジャパン』とかのサブカル方面からも面白がられて、ちょっとすごいムーブメントになってましたね。あのとき、鳥肌さんがインディーズのMAXだなと思って、俺たちの日比谷野音(インディーズ時代の東京ダイナマイトが単独ライブを行なった)なんて小せえなって。だから1回メジャーのほうに行こうと思って。

掟ポルシェ 鳥肌さんでインディーズでの成功の限界を見たと。

ハチミツ二郎 インディーズのまま行くのと、1回メジャーを通ってもう1回インディーズに行くのは違うだろうなと思ったんですよ。それは俺が大仁田さんを見てたからっていうのもあると思います。トンパチ・プロに出てた若いメンバーを呼んで、「ちゃんとメジャーの事務所に行け」って言って。で、U字工事はアミーパークに行って、猫ひろしはワハハ本舗で、俺と相方はオフィス北野に入りました。

――まだまだ続くトークの続きは発売中の「BUBKA10月号」で!

取材・文=武富元太郎

ハチミツ二郎=はちみつじろう|1974年岡山生まれ。お笑い芸人。東京ダイナマイトのツッコミ担当。高校卒業後、一期生として入った東京NSCを経て、自ら社長を務めたインディーズ事務所「トンパチ・プロ」などで活動したのちオフィス北野に所属。2009年からはよしもとクリエイティブ・エージェンシー所属している。

掟ポルシェ=おきてぽるしぇ|1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー。そのほか俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたる。著書に『男の!ヤバすぎバイト列伝 』(2018年)、『豪傑っぽいの好き』(2019年)など。

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