高橋源一郎『失われたTOKIOを求めて』魔改造されゆく渋谷
――三島由紀夫が、あと20年遅く生まれていたら、割腹自殺は渋谷でやっていたかもしれないですね。
高橋源一郎 あるいは、銀座とかね。そういう意味では、新宿から渋谷に文化的覇権が移った。だけど、その前の文化的中心は文京区の本郷、あるいは丸の内や上野でした。明治の文豪たちは、そういったエリアに居を構えていたケースも多かったんです。山手線沿いに、だんだんと反時計回りに重心が移って、文化的中心も変わっていった。だから、次は品川とかに覇権が……高輪ゲートウェイ駅が誕生したのも必然なのかもしれません(笑)。
――成田と羽田が結ばれ、リニアモーターカーなどができれば、品川を中心とした城南エリアが大ブレイクする可能性は大ですよ(笑)。
高橋源一郎 「汽笛一声新橋を はや我汽車は離れたり~」というくらいだから、日本の近代化は新橋や丸の内・東京周辺から始まった――そう考えると、いつ一周回りきって、丸の内へ戻ってくるか楽しみですよね(笑)。そうなったとき、日本の近代が完結するのかもしれません。昨年、東京オリンピックが行われたけど、結局、僕にはまったく盛り上がっているようには見えなかった。渋谷・原宿・代々木文化の終焉にも感じられたし、東京の雰囲気が、それらのエリアを象徴するような景気の良いものを受け入れていないんだなって。だから、渋谷は大改造というか魔改造しているんでしょうねぇ。
――まさに魔改造ですね。黒魔術的なまやかしというか。
高橋源一郎 渋谷駅の工事って、ずっと終わらないものだと思っていたんですけど、ある日突然終わってびっくりした。僕はNHKに行くために湘南新宿ラインで鎌倉から渋谷に向かうんですけど、工事が終わる前、湘南新宿ラインのホームから、駅の改札口までものすごく遠かった。ところが! 工事が終わってふたを開けたら、改札口が近くなっちゃった! ホームを改造しただけなのに、手品のごとく。なんか狐につままれた感じですよ。
――(笑)。もっとも新陳代謝の激しい東京だからこそ、見ておかないと、知っておかないといけないものがたくさんありそうです。
高橋源一郎 社会の変化が顕著なんですよね。地方都市であれば、たとえば衰亡という観点から街の変化が見えてくるところがありますが、東京は社会の意図みたいなものが見えるんですね。山手線反時計回りという意図で、もしかしたら近代150年は育まれてきたのかもしれない。東京の緑が、天皇家やお偉いさんたちで占められているのもあやしいし(笑)。一周を回りきったときが楽しみと言ったけど、それって同じ地点に戻ってくるということなんですね。今、歴史小説を書いているんですが、2022年は、明治元年1868年から数えて154年になります。その半分が77年なわけですけれど、2022年の77年前は終戦の年である1945年。そして、そこから77年さかのぼると明治元年になるんですね。終戦の年を折り返し地点と考えると、2022年って明治維新からちょうど一周したことになる。
――なるほど!
高橋源一郎 そういうタイミングで、オリンピックがあって、コロナ禍になった。いろんなことを繰り返しやってきて、それこそ高輪ゲートウェイ駅もそうですが、近代が終点にたどり着いた感じがあります。そういう最中に、僕たちはいる。自分の中で、「東京ってこういう街だったんだ」って味わうタイミングなんじゃないかなと思うんです。そんなことを考えながら、僕は東京を歩いていました。
――インタビューの続きは発売中の「BUBKA8月号」で!
取材・文=我妻弘崇
高橋源一郎=たかはし・げんいちろう|1951年、広島県生まれ。81年、『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長編小説賞優秀作を受賞しデビュー。88年、『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞、02年、『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞を受賞。著書に『いつかソウル・トレインに乗る日まで』『一億三千万人のための小説教室』『ニッポンの小説―百年の孤独』他多数ある。10年5月には、『「悪」と戦う』が刊行された。
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