なんてったってキヨハラ第20回「最後の対決」
そんなライバルを横目にエース道を突き進んだのが巨人の背番号18だ。桑田真澄はまさに投手として絶頂期を迎えていた。マウンド上でなにやらつぶやく“念仏投球”は、ピンチの時にはわざと長くボールに語りかけ打者をイラつかせる熟練の域に到達し、雑誌『現代』では「僕は映画が好きだから、マウンド上で毎試合、自分の映画を作るんです。自分は監督であり主役なんです」なんつってファンだというジャッキー・チェン譲りの映画論も披露。あの落合博満をして「桑田はプロ根性が座っている」といわしめ、以前は「アーチストのように繊細すぎるところがある」と18番を評した長嶋監督も「今年の桑田はひと味違いますよ。去年までと比べて、連敗を止める何か“パワー”を感じますね。マウンドでのあの形相、あれは迫力がありますよ」なんて絶賛した。移籍1年目の落合が緊急ミーティングで「おまえら、何を慌てているんだ。まだそんな時期じゃないよ。どっしり構えて試合をやろうぜ。オレが中日にいた時、おまえらが一番怖かったんだから」とナインを鼓舞するも、貧打に悩まされたチームは残り5試合で中日に並ばれ、最終戦に敵地での同率優勝決定戦へ。
その決戦前夜、名古屋の宿舎で桑田は長嶋監督の部屋に呼び出され、「明日は痺れるところで行く」とどこで投げるかまったく意味不明な指示を出されたあげく、さらに電話が鳴り「ああ、ケンちゃん!」なんて会話を始めるミスター。受話器を置くと、ハイテンションでエースにこう問いかける。「ケンちゃんだよ、ケンちゃん! 判るだろ?」と。いやケンちゃんって誰やねん。洗濯屋のケンちゃん……のわけがないだろう。それでも「志村……けんさんですか?」なんつって1秒も笑えないマスミギャグを絞り出す18番。するとミスターは驚いたようにかぶりを振り、「ケンちゃんって言ったら高倉の健ちゃんだろう!」とシャウトした。そんな平成球史に残る“ケンちゃん問答”を経て、桑田は翌日の“10・8決戦”で槙原寛己、斎藤雅樹との三本柱リレーのラストを託され胴上げ投手になるわけだ。
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中溝康隆=なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)、『令和の巨人軍』『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』(新潮新書)などがある。
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