“教養としてのラーメン”著者・青木健「ラーメンって、答え合わせをして食べるようなものじゃないと思うんです」
――きっかけはプレゼントだったんですか!?
青木 そうなんです。その方が、『ラーメン凪』の生田悟志さんでした。生田さんは、『一風堂』の社長である河原(成美)社長にあこがれを持っていた。河原さんは、既存のラーメン店のイメージ――、臭いとか汚いとかそういったものを一新し、女性にも気軽に入ってもらえるような店づくりを掲げたことでも知られていました。河原さんの本を読むと、歴史だけは揃えることができないから、『一風堂』のフォントは古めかしい筆書きにした、と。そうすることで歴史を先取りするといったメッセージがあると書かれていました。その河原さんにあこがれているならば、生田さんのお店は同じことをしてはいけないと思い、全く歴史を感じないデザインにしようと考えたんです。しかも、生田さんはとても型破りな方だった。今でこそサステイナブルなどと言われてますが、昔から使用した煮干しの再利用を考えたり、成功する根拠もないのに香港に出店して大行列を作ってしまったり。ですから、『ラーメン凪』は常にラーメン界から少しはみ出していてほしい――そんな願いを込めて凪の左払いが〇から飛び出しているんです。こんなにはみ出すとは思っていませんでしたけど(笑)。
――ロゴにそんなメッセージが! デザイナーとして俯瞰して見ている視点が、まさにこの本からも伝わってきます。
青木 自分はマニアになっちゃいけないと思うんですよね。それにロゴって自由なんですよ。中には、黒背景に金の抜き文字といったよく見かけるロゴもあるのですが、これといった流行り廃りがあるわけではない。たとえば、お蕎麦屋さんでチャレンジングなロゴや看板を作るとアレルギー反応が出る人もいると思うのですが、ラーメン店ってそれがないんですね。ですから、個性の強いものをプレゼンしやすい業界だと思います。また、体育会系の店主さんが多いので、他と似ているのが嫌なんですね。
――バンドのロゴみたいだ(笑)。本の中でも解説されている、「ラーメン」「らーめん」「麺や」といった店名の前に冠するショルダーネーム。この点も大切と指摘されていますが、そんなに変わるんですか?
青木 大きいです。僕がロゴを手がけた『雅楽』さんというお店があるのですが、当初のショルダーネームは、「麺FACTORY(雅楽)」を想定されていました。ところが、出店するエリアが、神奈川県のあざみ野という住宅地だった。さらに調べてみると、ラーメン店があまり出店していないような場所、つまりラーメンリテラシーがさほど高くない場所であることもわかりました。
――ラーメンリテラシー……その分析が面白い。
青木 そういった場所で、「麺FACTORY」のようなエッジの効いたショルダーネームにしてしまうとハードルが上がって、客足が伸び悩む可能性が高い。ラーメンだとありきたりすぎるので、ひらがなで「らーめん」のショルダーネームにすると住宅地の雰囲気ともマッチするのではないか――そんなアドバイスさせていただいたこともありましたね。