Uインターの生き字引 鈴木健が語る 髙田延彦vs北尾光司戦の真実
1日で会得したハイキック
――「3分5ラウンド制の引き分け」「関節技は極めない」「打撃に関してはシュートでOK」という約束で合意した、と。
鈴木 それで帰りの車の中で、髙田さんが「健ちゃん、俺はプロレスラーの怖さをあいつに教えてやるから」って言ったんだよね。私はどうやってプロレスラーの怖さを教えるのか、見当もつかなかったんだけど。そしたら髙田さんは、その車の中から高山(善廣)に電話して、道場に呼んだんだよね。
――当時、まだ高山さんがUインターの若手だった頃ですね。
鈴木 そして試合の前日にふたりで練習を始めたの。高山が北尾と身長が同じくらいだったので、仮想北尾になってもらって、ずっと長身の相手にハイキックを入れる練習をしてたんだよね。で、大会当日も普段だったら髙田さんは遅い時間に入るのに、その日は一番に高山と入ってきて。控室に鍵をかけて、また高山とふたりっきりで練習だよ。だから髙田さんは最初からハイキックを狙っていたんだけど、あれ一発で倒すって神がかり的だよね。
――田村(潔司)さんも、「あんなことやろうと思ってもできない。北尾が棒立ちでいたとしても難しい」って言ってましたよ。
鈴木 そうでしょ? で、髙田さんは試合では北尾との約束をちゃんと守ってるの。裏投げでもちゃんと投げられてるし、2ラウンドに髙田さんが腕ひしぎを極めかけたの憶えてる?
――ああ、ありましたね。千載一遇のチャンスだったけど、ロープに逃げられるっていうシーンが。
鈴木 あの時、もうポジションには入ってるから極めようと思えばぜんぜん極められたけど、北尾との約束通り極めなかったんだから。そして3ラウンドにあのハイキックでKOするわけだけど、途中でジャブみたいなキックを入れて、ずっとタイミングを測ってたんだろうね。
――北尾はだいぶローが効いてたんでしょうね。ローが痛いからローキックの脚をキャッチしようとした時、顔面がガラ空きになって、そこに右ハイキックがアゴに入ったんですよ。
鈴木 そうそう、あなたもよく観てるね。「打撃はシュートでいい」っていう約束だから、髙田さんもローキックを効かせて、ローのフェイントでハイキックで倒してる。それはシバター戦とはまったく違うよね。だから「ブック破りだ」とか言ってる奴は冗談じゃない。もし、こっちが約束を破ってたら、向こうのセコンドとかが文句言ってくるだろうけど、誰も文句を言いに来てないでしょ?