プロ野球界において、「落合博満」こそ、最高のエンタメだ。〈ノーカット版〉
――意外と人間味があるところも落合人気が高い理由のひとつなんでしょうか。
中溝 もしかしたら、もともとはそういう人で、監督になってから、どっかでキャラを無理やり変えたのかもしれないですね。
伊賀 『嫌われた監督』にも、1年目の日本シリーズではシーズン通して頑張っていた岡本(真也)を代えられなくて、(アレックス・)カブレラに満塁ホームランを打たれて負けたり、ペナントで優勝したときに泣いたりしていた。それが2年目から変わったって書いてあるじゃないですか。
――岡本の話は面白かったですね。落合にしては珍しい「情にほだされた采配」で手痛い負けを喫したわけですが、それが実は何年後かの伏線になっている。
伊賀 山井(大介)の完全試合未遂のね。あとは、優勝しても、中日新聞のやつらとかにあんまり協力してもらえなかったみたいな葛藤もあったんでしょうね。そのあたりで、少しずつ変わっていったのかも。マジでネットフリックスでドラマ化してほしい。エピソードが全部面白いんで。俺、あの話もすげぇ好きなんですよ。「最も影響を受けたバッター誰ですか?」って聞かれると、落合が必ず答えてた名前が、なんだっけ……。
――たしか……「どいけんじ」ですね!
伊賀 そう! 神主打法の生みの親!
中溝 ロッテの先輩の代打屋。
――全然聞いたことない名前だったんですが、彼の模倣をすることで、落合の代名詞である神主打法が生まれたらしいですね。
中溝 あの辺も最強幻想を掻き立てますよね。長嶋さん、王さんとまた違う、最強幻想。なんか道場で培われたみたいなね。
――「土肥健二が実は最強打者なんじゃないか?」っていう(笑)。
伊賀 ペナント終盤で試合に負けた後、「これで落合を解任できる」って球団社長がガッツポーズしていた話も面白かった。
中溝 そこも良かった!
伊賀 ガッツポーズの真相を社長本人に聞きに行ったら、パックのウーロン茶を強く握りすぎて、中身が吹き出すシーン! 「これぞノンフィクションだぜ!」って(笑)。
中溝 地味ですが、うーやん(宇野勝)が疑問を抱きながらバッティングコーチをやっているみたいな話も好きですね。中間管理職の悩みがあって。
伊賀 「宇野が歌上手い」って情報どうでも良かったけど(笑)。
――尾崎豊!(笑)
伊賀 「捨て猫みたいな二人の純愛を歌った」とか書いてあって、別に曲名出しゃいいのにって(笑)。まあ、出さないところが、ちょっと昭和っぽいルポで良かった(笑)。あとは、落合が「誰よりも練習した」って認めている荒木が、最後の最後に、危ないからって禁止されていたヘッドスライディングの封印を解くシーンも良かったですよね。これは鈴木さんが書く前に絶対にそれを……。
中溝 締めはこの話にしようと思ってたでしょうね。同業者からすると、素直に「あっ、上手いな」って思っちゃいました。