【追悼】酸欠少女さユりが私たちに残したもの
歌手の酸欠少女さユりが20日に死去したことが、公式SNSを通じて27日に発表された。彼女の訃報を受け、追悼の意を込めてこの記事を書くことにした。私自身、悲しさと寂しさとやるせなさと、そして彼女への感謝の気持ちがないまぜになりながらも、さユりという人物が私たちに残してくれたものを拾っていきたいと思う。
さユりに関するお知らせ pic.twitter.com/nmFo9YHUgJ
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) September 27, 2024
酸欠少女さユりは、2022年放送の人気アニメ『リコリス・リコイル』のエンディングテーマ『花の塔』をはじめ数々の有名作品に楽曲が起用されており、その名前を聞いたことのある人も多いだろう。「酸欠少女」には「人と違う感性・価値観に、優越感と同じくらいのコンプレックスを抱く”酸欠世代”の象徴」という意味が込められており、実際、生きている中での劣等感や閉塞感をテーマにした曲も多い。
TVアニメ『リコリス・リコイル』のエンディングテーマ
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) June 12, 2022
「花の塔」を担当させていただきます*
楽曲を使用したPVも先程YouTubeに
公開されました*
オリジナルアニメ….放送が楽しみ〜よろしくお願い致します🌻🌻
( @lycoris_recoil ) pic.twitter.com/rSfU6p19yc
私がさユりに初めて出会ったのは、2015年のデビューシングル『ミカヅキ』だった。例に漏れず、アニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』を観ていたのがきっかけである。本編が終わった後に曲が流れた瞬間、何かの引力が働くように思わず聴き入ってしまった。一度聴いたら忘れられない印象的な声、キャッチーなメロディー、彼女が紡ぐ詩的な言葉の数々。そこには彼女が抱える生きづらさと、「それでも」、「それでも」と乗り越えようとするエネルギーに満ちていた。以来、私は彼女の音楽に、世界に、どっぷりとはまることになる。
150cmに満たないほどの小柄な体を揺らし、トレードマークの黄色いギターをかき鳴らして力強い歌声で一心不乱に歌う。彼女が生み出す曲に共通していたのは、どこか不安定で、繊細で、時に苦しげで、時に烈しく、時に大きな希望を照らし、心をぎゅっと鷲掴みにするようなものだということだった。彼女の歌を聴くといつも短篇小説の読後感のような気持ちになった。そして、『birthday song』の「死にたいと生きたいの間を 何度も何度も 行き来しながら」、「死のうと思って止めたあとの 死ねずに吸い込んだこの息で 私は歌を歌っている」という歌詞にもあるように、生きることと歌うことは彼女にとって同義だったように思う。歌に生かされ続け、生きている限り歌わなければいけない――そんな気迫と不安定さが常にあった。
そうして生み出される音楽だからこそ、聴いていると心に溶け込んでいき、日々感じている苦しさや漠然とした不安に折り合いをつけることができたのだと思う。彼女の歌は日常に寄り添いながら、すくいあげたささやかな喜びも、振り払うことができない希死念慮も、全てを包み込んでくれた。私と同じように、きっと多くの人が「これは自分のための歌だ」と彼女の歌に特別感を見出し、自己投影をしていたのではないかと思う。実際、何度も通ったライブやリリースイベントでは、訪れた他の人たちが皆一様に彼女の歌や言葉を一つも聞き逃すまいと耳を傾けて心を共有しているような、不思議な雰囲気で満たされていたのが印象的だった。
お世話になっている大切な皆様へ
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) March 18, 2024
私事で大変恐縮ではございますが、
2024年3月18日に
ミセカイのアマアラシさんと結婚しましたことをご報告いたします。 pic.twitter.com/5LiWjTEGpz
今年の3月18日には、ミセカイのアマアラシとの結婚報告があった。突然の吉報に多くの人が歓喜し、祝福した。思わぬ知らせに私も大きな喜びを感じる一方、少しずつ変化していた歌への変化に思いを馳せずにいられなかった。以前はネガティブな感情にスポットライトを当てることが多かった一方、ここ数年は希望へ昇華する曲が多くなってきていたのだ。年齢を重ねる中で考え方に変化が生まれたことは想像に難くないが、これまで幾度も考えていた疑問が大きく膨らみつつあった瞬間でもあった。――「彼女は一体いつまで“酸欠少女”でいてくれるのだろう?」と。
なんだかありがたいことに東シナ海を超えさらに南シナ海まで超えてライブのお誘いがありフェスにワンマンツアーにやって参ります^ – ^しかし現在のモードとしては準備期間であり第二フェーズ移行期間であるので、日本のライブはおやすみしてますがちゃんと企んでるから待っててねよろしくだよ!!!!
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) April 3, 2024
続く5月にはインドネシアのジャカルタ、中国の北京・広州でライブと、立て続けに海外でライブを行うことになり、「日本のライブはおやすみしてますがちゃんと企んでるから待っててねよろしくだよ!!!!」と国内での活動を予感させるような投稿もしていた。順風満帆に進んでいたかと思いきや、7月には機能性発声障害により活動を休止することを発表する。
少し前から発声時に違和感があり、思うように声を出すことが出来なくなっていました。
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) July 25, 2024
病院にかかったところ機能性発声障害と診断されました。
声が震えたり裏返ったり掠れたり筋肉が意思と反した動きをしてしまい、歌うことが難しい状況が続いています。…
そうした経緯から、9月27日正午に投稿された「さユりに関するお知らせ」の文字だけを見たとき、ほの暗い不安が心に浮かんだ。結果は、冒頭で述べた通りである。
彼女は持病と闘い続けた最期まで
— アマアラシ (@regoris_ame) September 27, 2024
音楽のことを心から想っていました
伝えられる事は多くないけれど
これだけは紛うことなき事実です
どうかさユりさんが産んだ愛を変わらず受け取って欲しい、
そして受け取ってもらえたのなら
抱え共に生き抜いて欲しいです https://t.co/zKIcDakwIU
「いつもさユリを応援してくださっている皆様に謹んでご報告いたします。さユりが、9月20日に永眠致しました。享年28歳。なお、葬儀につきましては、ご遺族の意向により親族と関係者のみで執り行われました」……。じわじわと黒い染みのように広がる絶望と同時に、彼女が持つ危うさから生み出された奇跡のような珠玉の楽曲群に思いを馳せる。同じ時代に巡り会い、みずみずしい楽曲を精いっぱい届けくれたこと。まぎれもなく宝物のような時間だった。
彼女から新しい音も言葉も生まれないこと。もっと年を重ねた彼女が感じた世界を知ることができないこと。一心不乱にギターをかき鳴らす姿も、ぎこちない不器用な笑顔も見れないこと。きっと多くの人が待ち望んでいたそれら全部がかなわないことを、今はただただ悲しく、寂しく思う。“それでも”、私たちはさユりが残した曲を、言葉を抱えながら、彼女がいない今を生きなくてはならない。
今までたくさんのものを届けてくれてありがとう。どうかあなたが幸せでありますように、ご冥福を心から祈ります。
■酸欠少女さユりオフィシャルサイト
https://www.sayuri-official.com
■酸欠少女さユりオフィシャルX
https://x.com/taltalasuka
■酸欠少女さユりオフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/sayuri149cm
■酸欠少女さユりオフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/@sayuriSMEJ
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