2024-03-04 18:00

R-指定と対談、宇多丸が明かすライブの極意

RHYMESTER宇多丸とCreepy Nuts R-指定
RHYMESTER宇多丸とCreepy Nuts R-指定

R-指定とRHYMESTER・宇多丸師匠の対談が実現。先日行われた17年ぶりの日本武道館公演でも「キング オブ ステージ」の余裕と貫禄を見せつけた師匠に、ライブの極意を聞いた。

得しかないアウェイ

R-指定 実はRHYMESTERとは、Creepy Nuts結成前に同じステージに立たせていただいてるんですよ。

宇多丸 そうなんだ! なんの時?

R-指定 横浜アリーナの「BEAT CONNECTION」です。俺はKOPERUと「コッペパン」を組んでたときに前座で出て。

宇多丸 横アリで歌系フェスでしかも前座! 地獄見た?(笑)

――地獄前提(笑)。

R-指定 当然地獄(笑)。それまで小さいクラブでヘラヘラやってた奴らが、いきなりアリーナのステージに出させられて。リハもよく分からないまま終わって、本番はでっかい音は鳴ってるけど何もちゃんと聴こえてない、ライトがガンガンに当たって客席も何も見えてない……その中で2曲わめき散らしたって感じでしたね。もう、深海魚がいきなり陸に上げられた感じですよ。訳も分からずピチピチ跳ねてるだけ(笑)。

宇多丸 イヤモニもないだろうし、勘でやるしかない感じだ。

R-指定 KOPERUは横アリに出たことすら覚えてないですから(笑)。

宇多丸 ああいう、「そのとき人気の歌手が出る」系のフェスは難しいんだよね。ロックフェスより難しい。

――ロックフェスは「満遍なく見る」人が多いけど、歌モノのフェスは「お目当て」が既に決まってるお客さんが多い感じがしますね。しかも、回遊型ではなく1ステージ制だと……。

宇多丸 大変。「え! あの人がこんな格好いいパフォーマンスしてるのに、お目当てじゃないから盛り上がらないの?」みたいなことはよくある。俺たちは「すみませんね~、お目当てじゃなくて!」とか毒づけるけどさ(笑)。

R-指定 俺たちも「この並びでトリはおかしい。どう考えてもみんな前の人を見に来てる」みたいな時もありますね。

宇多丸 そういう時どうすんの?

R-指定 全部言います。「お目当てが俺らじゃないのは分かってますけど、みなさんには俺らのライブをちゃんとトリの空気にする義務と責任があります!」って(笑)。

宇多丸 それでいいよ。俺もきっとそう言う(笑)。

R-指定 そうやって味方を増やします。

宇多丸 「そりゃそうだ」って共感してくれる人を増やしてね。

R-指定 みんな共犯ですよ、と。

宇多丸 俺が最近言ったのは「盛り下がって損するのが結局誰だか、わかりますよね? だから……ちゃんと当事者意識を持て!」って(笑)。

R-指定 ハハハ!宇多丸 それはMummy-Dの「やめなさい!」があってこそ成り立つんだけど。

――松永くんは余計に煽りそうだから、Creepyには使えない技かもしれない(笑)。

宇多丸 メインの人が後に出てくる場合とかだったら、「メインの〇〇さんは俺たちを超リスペクトしてくれてるわけですよ。それなのに盛り下がったら誰が悲しむの?ってハナシですよ!」と。

R-指定 ……人質(笑)。

宇多丸 そうやって色々やりようはあるし、そこも腕の見せどころ。

R-指定 みんなハッピーなフェスも楽しいし、一方でアウェイならそれをどう乗りこなすかは、次にも繋がりますよね。

宇多丸 アウェイはマイナスからのスタートだから、頑張れば頑張るほどプラスしかないし、「得しかねえ、今日」みたいな。それがちゃんと形になれば「いてこましたった!」っていう。

R-指定 8、9年前ぐらいにCreepy、SHINGO☆西成さん、FIRE BALLという座組でライブがあったんですよ。ただ、いろんな事情で客入りが悪くて、LIQUIDROOMのフロアが寂しい感じになってて。それで俺らがビビり散らかしてたら、袖でFIRE BALLが「一番楽しいやつじゃん!」「ワクワクすんなぁ」と出ていって。

宇多丸 かっこいい。

R-指定 それでまばらなフロアが気にならんぐらいバチバチに上げて「すげえ!」っていう。

宇多丸 それがFIRE BALLというところがまた画になるね。

――見てる側としても、お客さんが少ないときにガッチリとしたライブを見せるアーティストは、信頼できますね。

宇多丸 俺らも未だにリハのMCパートで「人数なんて関係ないぜ!」って言うもん(笑)。

R-指定 その不安が自分たちの……。

宇多丸 原点! その時々の定番曲

――明るいのか暗いのか(笑)。宇多丸さんはRHYMESTERの著書『KING OF STAGE~ライムスターのライブ哲学~』の中で、「セトリに完成なし」と仰っていますが、ニューアルバム『Open The Window』の楽曲も含め、新曲が生まれる限り、セトリが変化し続けるのは、リスナーとしては嬉しいことで。

宇多丸 新曲もそうだし、会場とか条件が変われば、セトリも当然変わるからさ。だからMCと同じだよ。

R-指定 板の上で曲が変わることとかもあるんですか?

宇多丸 照明との兼ね合いもあるから、ツアーとかではそれは避けるけど、会場の状況を見てアンコールを調整したりはあるかな。夏でエアコンの効きも悪くてとかだったら、アンコールやMCを短めにしたり。

R-指定 俺らはフェスでたまにセトリを急遽変えたりするんですよ。いっときはカッチリ決めてたんですけど、ライブチームとの信頼感も含めて、最近はその場の状況で変えられたらいいかもなと。ある夏フェスで、出番が18時やったから、「じゃあ“よふかしのうた”から始めますか」と決めたのに、袖にいったら全然陽があって。「めっちゃミスった! 天気アプリの見方も分かってないんか俺ら!」みたいな(笑)。それで本番直前に〈沈む夕陽の色に~〉で始まる“Bad Orangez”に変えたんですよね。ライブが進んで暗くなってから、松永がバーって俺んとこにMC中に来て「最後に“よふかし”やろうよ」と耳打ちして、最後の1曲を“よふかし”にしたり。ただそれができたのは、“よふかし”用の照明とか音の感じをスタッフが用意してくれてて、それが臨機応変に対応できるライブチームとの信頼関係があってこそやったと思いますね。

宇多丸 チームが成り立ってるかどうかは大事だよね。俺らもタイミングによっては日没時間調べるもん。

R-指定 おぉー、やっぱり。宇多丸 「何時に日没予定だっけ?」「まだ微妙に明るいかもっすね」みたいな。

――内容だけではなく、シチュエーションも考えていくと、セトリは「完成」しませんね。

宇多丸 今回のツアーも、1回も同じセットリストでやってないからね。

――その方が新鮮という感じでもありますか?

宇多丸 もちろんそれもある。一定のフレッシュ度を保ってくっていうのは、見てる側だけじゃなくて、演ってる側にも大事だから。

――「一見さんが求める曲」「コアなファンが求める曲」「演者が聴かせたい曲」というバランスについてはどう考えられていますか?

宇多丸 それを判断するには、やっぱり場数を踏んで行くしか無いよね。不思議なもんで“B-BOYイズム”があんまりウケない時期もあったんだよ。

R-指定 へ~。いつぐらいですか?

宇多丸 10年ぐらい前かな。要するに「お客さんが“B-BOYイズム”を知らないターン」に入ってた。

――『ダーティーサイエンス』の時期ですね。RHYMESTERにとってもリスナーにとっても、ひとつの転換期だったと思います。

宇多丸 だから『ダーティーサイエンス』のツアーでは“B-BOYイズム”をやってなかったんだよね。で、ツアーに帯同してたMAKI(THE MAGIC)くんが、広島公演のときに「広島の店なら任せとけ!」って言うから着いてったら、全然知らねえという珍事があって(笑)。

――さすがMAKIさん(笑)。

宇多丸 それで、ウロウロしてたら「あれ、なんかライブ会場いたやつじゃね?」て、そこらを歩いてたお客さんにこっちから声掛けて。

R-指定 ナンパですか(笑)。

宇多丸 それで「なんか美味しいとこある?」って紹介してもらったついでに、そのファンの人と一緒に飲んでたんだけど、そいつが酔っぱらって「なんで“B-BOYイズム”やんないんすか!」と。

――ファンなりの激情が(笑)。

宇多丸 「なんか最近あんまりウケないからさ」なんて返したら、いきなり「バカじゃないの!」って(笑)。まあ、そういう最近の客に対して、という意味だったとは思うけど。

R-指定 どっちの気持ちもわかるな~。

宇多丸 最近はCreepyが推してくれてるから「“グレートアマチュアリズム”がめっちゃウケるな!」と思うことが多いし、そういうサイクルもあるよね。

宇多丸(ライムスター)プロフィール

1969年東京都生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパーで、TBSラジオ(月~木)の22時から生放送されている、ワイド番組『アフター6ジャンクション 2』を担当するラジオパーソナリティ。アルバム『Open The Window』(ビルボード8位, オリコン13位)の全国リリースツアー開催中。超満員の東京、17年ぶりの日本武道館公演は、アルバム参加の全ゲストアーティストたちに囲まれて、大盛況のうちに閉幕した。

R-指定プロフィール

1991年、大阪府出身。Creepy Nuts、梅田サイファーのMCとして活躍中。バトルMCとしても、2012年からの「UMB」3連覇をはじめ、テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』での2代目ラスボスなど、名実ともに「日本一」の実績を誇っている。

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