田村潔司「解析UWF」第10回…空白の一時期が生んだ移籍劇の裏側

リングス移籍後の田村潔司。デビュー戦となるディック・フライ戦を見事勝利で飾った
写真提供=平工幸雄
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1995年、田村潔司は所属するUインターが打ち出した方針に反発したことで試合への出場と給料が差し止められる。先の見えない日々が過ぎていく一方で、田村に与えられた時間は、他団体への移籍を決めるのに十分なものでもあった。空白の一時期が生んだ移籍劇の裏側に迫る。

プロレスラー、プロ格闘家にかぎらず、プロスポーツ選手というのは、当然のことながらその競技をすることでお金を稼ぐ職業だ。プロ野球などメジャースポーツでは、プロになった瞬間から大金を稼ぐ選手がたくさんいる。比較的マイナーなスポーツでも、その競技で食べていけることを考えて頑張っている選手がほとんどだと思う。

格闘技に目を向けても、いまRIZINなどに出場している若い選手たちは、YouTubeやSNS、スポンサーへの営業活動などで収入を確保しながら、プロモーションと契約交渉をして、試合で結果を出すことで“お金を稼ぐ”という意識をしっかりともっている選手が多いように感じる。

それに対して、90年代前半までのUWF系の若い選手たちは、ボクも含めて良くも悪くも“お金を稼ぐ”という意識がやや希薄だったように思う。お金よりも、とにかく練習して強くなって、Uのリングで自分を表現するということが最優先。若手のトップだった船木誠勝さんを筆頭に、みんな20代前半で若くてほとんどが独身だったので、情熱だけでやっていたようなところがあった。

だから91年1月に新生UWFが突如解散となり、結果的に団体が3派に分裂したときも金銭的な条件がいいところを選んだ選手はひとりもいなかったと思う。船木さんや鈴木みのるさんは、師匠でもあった藤原喜明さんとの関係性と「若手だけでは団体をやっていけないのではないか」という思いからプロフェッショナルレスリング藤原組に行き、冨宅(飛駈)もそれに追従。ボクとカッキー(垣原賢人)は「途中でダメになってもいいから、とにかくUWFを続けたい」という思いからUWFインターナショナルを選んだ。

そんな思いで若手時代を過ごしていたのは、UWF系の団体は「入門」という他のプロスポーツではあまり見られない形式を取っていることも理由として考えられる。

UWFの選手になるには、まず入門テストを受け、それをクリアすると合宿所に入寮し、そこからほぼ自由がなくなる。ひたすら練習、雑用に追われ、寮と道場を往復するだけの日々が始まるのだ。

まだ試合に出られない練習生に「給料」はないけど「手当」は出て、最初の数カ月間は月3万円。なんとか夜逃げせずに生き残り、デビューの可能性が見えてくると、途中から月5万円になる。学生のバイト代にも満たないような額だけど、使う暇がないのでお金が減る機会もない。住む場所は寮があり、食事は道場のちゃんこがあり、練習着はジャージとTシャツが支給されるので、ある意味で衣食住が保障された状態。そのため、新人時代は練習で死ぬような思いをするし、まったく自由のない生活で精神的にも追い詰められるけど、お金で苦労することはないのだ。

ただし「衣食住が保障される」と言っても、それは生きる上で最低限度のような保障でもあった。新生UWFの若手は、美登利荘、宮川荘という二つの寮に分かれて住んでいて、ボクは入門当時、美登利荘のほうに入寮。“寮”と言うと食堂や大きめの風呂があり選手が各部屋に住むような一棟の建物を想像するかもしれないけれど、美登利荘は2階建て風呂なし2K(6畳、4畳と台所)のアパートの1室。そこにボクは先輩の中野龍雄さんと一緒に住ませてもらっていた。6畳のほうに中野さんが住み、ボクはふすまを挟んで隣にある4畳の物置部屋にバッグ一つと万年床住まい。新生UWFはバブル絶頂の80年代末にあれだけ人気があった団体だけれども、若手の生活はそんな感じだったのだ。

当時はそれが当たり前だと思っていたからそこまで苦には感じなかったけれど、夏場は暑くて夜眠れないのがキツかった。風呂なしの美登利荘には当然冷房もなく、建物のすぐ横には小田急線の線路があり目の前が踏切。窓を開けると電車と踏切の騒音で先輩に怒られそうだったので、窓は閉め切りにしていたため、夜中でも部屋の温度は33℃くらいあったはずだ。

水で濡らしたタオルで身体を拭いたり、コーラの1リットル瓶に水を入れて、そのわずかな冷たさで身体の火照りを取って寝ていたのを思い出す。扇風機を買いにいけばと今では思うが、新弟子という身分もあり日々の雑用に追われていた、そんな日々を絶え抜き、いざデビューが決まると会社と1年ごとの年俸契約を結び、それを12で割った額を毎月の給料としてもらうようになる。1年目は技術も集客力もない新人なので、額はそれなり。ボクは高校卒業してUWFに入門したけれど、同い年の高卒の新入社員より少ないくらい。でも、1年ごとに契約更改があり、自分の頑張り次第で年俸は上がっていったので、やりがいはあった。

一般の会社員のような決められたボーナスはないけれど、メガネスーパーが冠スポンサーになった横浜アリーナ大会(89年8月13日)が終わったあと、一度ボーナスをもらったことがある。デビュー1年目ながら、たしか70万円くらいもらえて、それがものすごくうれしくて、原付バイクを買った憶えがある。その時のボーナスは封筒に入れた現金を手渡しでもらったんだけど、前田日明さんや髙田延彦さんといった上の人たちは、封筒には入り切らず札束を入れた入れ物が立ったと聞いた。

ボーナスはその横浜大会以降はもらった記憶がないけれど、ビデオソフトやグッズのロイヤリティは少し入ってきた。ボクは眼窩低骨折のケガをして長期欠場したので、ビデオのロイヤリティはあまり入ってこなかったけど、ケガする前の微々たる額ながら5試合分はもらえた。

新生UWFからUWFインターナショナル(Uインター)に変わったあとも基本的な契約のやり方は一緒。寮は一軒家に若手も新弟子もみんな一緒に住むかたちに変わった。

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取材・文=堀江ガンツ

田村潔司=たむら・きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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