吉田豪「what’s 豪ing on」Vol.5 崎山蒼志、愛情で磨かれた屈折率ゼロの才能

「BUBKA6月号」に登場している崎山蒼志
撮影/河西遼

吉田豪によるミュージシャンインタビュー連載。第五回のゲストは、崎山蒼志。高校生シンガーソングライターとして並み居る同業者から賛辞を受け、現在もまだ弱冠二十歳。そんな彼のフレッシュ、ディープ、ハートウォーミングな素顔に迫ります。

家族とVからの影響

――この連載は基本、中年に差し掛かったミュージシャンの迷いや自意識について聞いてるので、今日はどうなるのかサッパリわからないんですけど、いままでのゲストが尾崎世界観さん、向井秀徳さん、マヒトゥ・ザ・ピーポーさん、スカート澤部(渡)さんなんですよ。

崎山蒼志 それをお聞きしてて、恐れ多すぎてって感じなんですよ。全員に影響受けてるんです、全員大好き。だからちょっと……。

――かなりのプレッシャーが?

崎山蒼志 少し……。存在としてすごい影響を受けた4人というか。尾崎世界観さんは最初に出会ったのが小学校4年生とか5年生のときに『カウントダウンTV』でクリープハイプという存在を知り、声に衝撃を受けて好きになって、ライブも母親と行ったりしてました。向井さんはまた別ベクトルで知って。

――かなりの影響を受けてる感じですよね。

崎山蒼志 すごい大好きで。ホント衝撃でしたね。澤部さんもいろんな音楽雑誌で名前を見てて、それで聴いたらめちゃめちゃいいシティポップソングすぎてやられてしまって。

――そしたらAbemaTVの『日村がゆく』出演で、審査員として澤部さんに出会うという。

崎山蒼志 そうですね。それこそGEZANはつい先日ツアーの対バンに呼んでくださって、ものすごかったし。みなさん自分の青春時代にめちゃめちゃ聴いてた楽曲を作られてる方々で、面識はあるんですけど、いつまでも敬愛してる人たちっていう感じがして。いまでも緊張してあんまりしゃべれない瞬間が多いんで。

――いろんな人たちを好きとか言い続けてますけど、そこから繋がったりするんですか?

崎山蒼志 言うから会えたりもありますし。

――それこそ最初に好きになったというthe GazettE(注:2002年結成。10年には東京ドーム公演を開催し、大型フェス出演や海外ツアーなども旺盛に行っている)との接点とかはできたんですか?

崎山蒼志 まだないです……。同じレーベルではあるので、そういう近さはあります。ただ、ここまで尊敬してる人たちに会っていいものなのかっていう気持ちもあって身構えちゃって。

――the GazettEはお母さんの影響で好きになったみたいですけど、崎山さんはご両親の影響をホント素直に受けてる人ですよね。

崎山蒼志 そうですね、先にいろんなものを刷り込まれている感じがあって。

――洗脳に近いとも言ってましたけど。

崎山蒼志 静かに(笑)。1歳とか2歳とかで、もうそういう音楽がかかってたので。

――胎教から聴かされてるくらいの。

崎山蒼志 ホントにそうだと思います。母親は優しいんですけどちょっとクレイジーで、たぶん自分がお腹にいるときからBUCK-TICK(注:1987年のメジャーデビューから2年後に日本武道館、東京ドーム公演を成功させる。23年4月に23枚目のアルバム『異空 -IZORA-』をリリース)とかMALICE MIZER(注:92~01年に活動。SHAZNA、FANATIC◇CRISIS、La’cryma Christiと並び、ヴィジュアル系四天王とされていた。2代目ボーカルとしてGacktが在籍していた)とか、遡るとデヴィッド・ボウイ(注:72年のアルバム『ジギー・スターダスト』で爆発的な成功を収め、数々の楽曲、ヴィジュアルで今なお影響を与え続けるイギリスのミュージシャン。16年死去)とかYMO(注:78年に結成され、「テクノポップ」を全世界に広めた細野晴臣、高橋幸宏(23年死去)、坂本龍一(23年死去)の3人組)とか聴いてて、あとホラー映画もすごい好きな人なので、僕が赤ちゃんのときにミヒャエル・ハネケ(注:『ファニーゲーム』や『ピアニスト』、『白いリボン』などを手がけたオーストリアの映画監督)の映画を観てたり、ちょっとどうかしてますよね。

――何か刷り込まれてるんですかね、子供の頃にドクロのTシャツを着せられた以上に。

崎山蒼志 ちょっとおかしなものを(笑)。でも、ドクロは自分から好んでも着てたんで。

――自然とそういう美意識が刷り込まれて。

崎山蒼志 そうですね、5~6歳のときにはビジュアル系とかに対する考えが広がってて。

――5~6歳で退廃的な感じに(笑)。

崎山蒼志 どっぷり浸かってましたね。『Cure』(注:03年に創刊されたヴィジュアル系バンドを主軸に扱った雑誌。22年6月号をもって一時休刊中)っていう雑誌とか読み漁ったりしてて。

――え、インタビューも読んでたんですか?

崎山蒼志 読んでました。カッコいいなと思うだけじゃなくて。メンバーそれぞれのオフショットみたいなのも楽しんでました。

――それなら自分もあれぐらい派手な外見になりたいみたいな思いもあったんですか?

崎山蒼志 たぶん昔はあったんですけど、途中から自分は違うんじゃないかと思い始めて。

――人には向き不向きがありますからね。

崎山蒼志 そうですそうです。メイクしてない方々の音楽もだんだんと好きになっていったというか。先にハードな音楽性だけどリンキン・パーク(注:ラウドロックやヒップホップ、エレクトロニックなど様々なジャンルから影響を受けたアメリカのロックバンド。17年にボーカルのチェスター・ベニントンが死去)とかメタリカ(注:メタルのジャンルで最も成功したとされているアメリカのバンド。代表作は『メタル・マスター』)とかも父の車で聴いてたんで。あと9㎜ Parabellum Bullet(注:04年に横浜にて結成されたロックバンド。今年9月には約9年ぶりの日本武道館公演が予定されている)とか、どんどん邦ロックも聴くようになって、こういう形もあるんだ、みたいな。

――お父さんがBLANKEY JET CITY(注:浅井健一・照井利幸・中村達也による3人組ロックバンド。90年に「イカ天キング」となりメジャーデビュー。00年に解散)が好きでザ・スターリン(注:80年に遠藤ミチロウ(19年死去)を中心に結成されたパンクロックバンド。ステージから豚の頭や臓物を投げつけたり、全裸で放尿などの過激なパフォーマンスで有名)のコピーバンドでギターもやってアシッドジャズ(注:80年代にロンドンのクラブシーンから発生した、ジャズ・ファンクやソウル・ジャズなどの影響を受けた音楽ジャンル。代表的なアーティストはジャミロクワイやインコグニートなど)も聴いてたという。

崎山蒼志 若いときはバックパッカーでものすごい海外に行ってた人で、南米とかもすごい好きで、ブラジルっぽい音楽とかボサノヴァとかも聴いてたんで、自分も好きでしたね。

――お母さんはSOFT BALLET(注:86年頃結成された遠藤遼一・藤井麻輝・森岡賢(16年死去)による3人組バンド。エレクトロニック・ボディ・ミュージックをはじめとするサウンドが特徴的)も好きで。

崎山蒼志 母はSOFT BALLETが大好きで、追っかけしてたぐらいみたいです。

――へー! じゃあ、掟ポルシェと当時知り合ってたぐらいなのかもしれないですね。

崎山蒼志 若いときにすれ違ってるかもしれないですね。あとTHE YELLOW MONKEY(注:吉井和哉、菊地英昭、廣瀬洋一、菊地英二による4人組ロックバンド。01年の東京ドーム公演後の活動休止、04年の解散を経て16年に再結成)とかGUNIW TOOLS(注:90年から活動を始めた北海道出身のロックバンド。自分たちでMVの撮影から編集を行い、視覚と聴覚でバンドの世界観を表現していた)のライブにすごい行ってたって話を聞きました。

――当然そういうものを聴かされ続けて。

崎山蒼志 聴いてましたね。

――V系の影響って何か残ってます?

崎山蒼志 精神性にどこかあるんじゃないかなっていう。あの人たちの美学というか、いまの自分には当てはまってないのに共鳴してしまう部分もあるというか、なんか突き刺さりますね。故郷のように感じるというか……。

――ダハハハハ! Vが故郷(笑)。

崎山蒼志 そうですね、Vが(笑)。すんなり聴けちゃうというか、気持ちいいなあって、お風呂のように感じる瞬間はありますね。

――ボクらが童謡とかに感じる郷愁みたいなものをヴィジュアル系で感じている(笑)。

崎山蒼志 そうかもしれないです。退廃的なムードは好んでいて、拙いながらもそういう歌詞を学生時代は書いてた記憶があります。そういう文学にも惹かれてたので。だからMALICE MIZERの『ILLUMINATI』とか聴くと「これこれこれ!」って思います。

――原点(笑)。

崎山蒼志 原点です。「これね!」っていう。

――そんな両親だから、ギターを始めるしかないような環境だったってことですかね。

崎山蒼志 どちらにせよギターには触ってたんじゃないかと思って。母親は子育てしててV系とかあらゆるカルチャーにしばらく触れてなかったんですけど、一緒にテレビ観てたときに出てきたthe GazettEに一緒にハマッたんですよ。そのとき僕は4歳で、ギターを始めたいって言って、祖母の家の近くにあったギター教室に通い始めて。父親もザ・スターリンのカヴァーしてたからエフェクターが家にあったりして。小学校のときはそれを使って演奏したり。

――お母さんとテレビを観てるときにギターやりたいって言ったのは、お母さんを喜ばせたい的な感じもちょっとあったんですか?

崎山蒼志 あ、それすごい。どうなんですかね? それもあるかもしれないし、幼少期すぎてあんまり覚えてないですけどビビビッときて。

――4歳の記憶なんてないですよね。

崎山蒼志 ほぼないんですけど。僕が車で寝てるあいだに母親が何かポストに投函しに行って、そこで目覚めて不安になってめちゃめちゃクラクション鳴らした記憶しかないです。

――可愛い! つまり、自我が芽生えるわけがないような時期に自発的に音楽を始めて。

崎山蒼志 そうです、好んで。

――そしてギター教室の先生と友達みたいになって。先生から影響は受けたんですか?

崎山蒼志 すごく肯定的な先生で、なんの曲を持ってっても、「これやりたいんです」って言うと、「いいじゃん!」って言ってくれて一緒にやってくれて。その人柄には影響を受けてますね。

――当時は漫画家になろうとしてた時期で。

崎山蒼志 はい、漫画が大好きで漫画家と薬剤師になりたくて。祖母に「薬剤師になったらいいのに」って言われたので(笑)。

――それもストレートに家族の影響!

崎山蒼志 そうです(笑)。でも、漫画は自分には合ってないんじゃないかとも思って。

――小学校に上がった頃から存在しないミュージシャンのジャケットを描いていたとか。

崎山蒼志 そういうのめちゃめちゃ好きで描いてましたね。ヴィジュアル系のMVとかDVDの影響も大きいのかなと思ってて。ものすごい練りに練られた装飾だったり、歌詞カードじゃない奇妙なイラストのカードがいっぱい入ってたり、DVDが3枚組で、真ん中の1枚はライブと関係ない恐い映像が入ってたり、っていうのがめちゃめちゃ好きで。音楽の内容というよりも装飾へのこだわりというか。

――それはまだ残ってますよね。音楽を好きになるのもMVきっかけが多いみたいだし。

崎山蒼志 ホントにそうですね。the GazettEもそうですし。映像とか視覚的なものと同時に鳴ってるときに喜びを感じてたのかな。

取材・文/吉田豪

――まだまだ終わらないインタビューの続きは発売中の「BUBKA6月号」で

崎山蒼志=さきやま・そうし|2002年生まれ、静岡県浜松市出身。18年5月の『日村がゆく』(AbemaTV)への出演がきっかけで世間の注目を浴びる。同年12月に1stアルバム『いつかみた国』をリリース。21年にはアルバム『fi nd fuse in youth』でメジャーデビュー。大型フェス出演や、多くのミュージシャンとのライブ共演を積極的に行う傍ら、雑誌・文芸誌でのエッセイ連載も手掛ける。現在、全国ツアー『崎山蒼志 TOUR 2023「はたち・みずのかたち」』が開催中。

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