吉田豪新連載「what’s 豪ing on」Vol.2 向井秀徳

吉田豪新連載第二回のゲストは向井秀徳
撮影/河西遼

プロインタビュアー・吉田豪による新連載。第二回のゲストは、昨年12月に再解散したNUMBER GIRL、そしてZAZEN BOYSのフロントマンである向井秀徳。“自意識過剰と自尊心の拡大”を自問自答してきたその生き様を語ります。

貴様に伝えたい

――今回、取材申請したら「吉田豪さんが向井秀徳に興味を持っておられるのか、お伺いしたい」という返信があったって聞いて、THIS IS 向井秀徳って感じで新鮮でした。やっぱり、まずそこを確かめたいって感じなんですか?

向井秀徳 そうですね。いろんなイベント会場とかライブ会場でお見かけはよくしてたんで、私は吉田豪さんを存じ上げてますけど、もちろん本も読んでおもしろいなと思ってて。

――そうですか、ありがとうございます!

向井秀徳 で、見かけるんだけど、あんまこっちに興味ねえのかなとは思ってました。

――ダハハハハ! そんなことないですよ! ボクはもともとピクシーズ(86年に結成され、インディロックシーンに大きな影響を与えたアメリカのバンド。2022年には来日公演を行った)とかそのへんの海外インディーが大好きで、ナンバーガールが出てきたときはそういう日本のバンドが出てきたと思ってインディーの時点でCD買ってました。なので興味がないわけがないです。

向井秀徳 あら、そうだったんですね! ただし、こういう取材の機会とかあってもよかったろうにと思うと、なんでまたこのタイミングなんだろうな、と。

――そもそも音楽の仕事はあまりないし、「誰のインタビューをやって下さい」とかの依頼でしかやってないんですよ。で、ボクが仕事する相手もある程度固まってくるから、この企画はほぼ接点がないミュージシャンにキチンと取材してみるのがテーマなんです。

向井秀徳 そうですか、わかりました。(編集が差し入れとして持参したビールを出して)じゃあスーパードライで。吉田さんはこういうの飲みながらとか取材やらないんですか?

――やっても大丈夫なんですけど、普段は自転車移動なので自粛している感じですね。

向井秀徳 そうですか、じゃあ今日は喉を湿らすぐらいで。(缶ビールを渡して)チャリで移動ってお住まいはどのへんなんですか?

――新宿2丁目在住なので、お台場ぐらいまでだったら自転車で行っちゃう感じですね。

向井秀徳 私も自転車移動なんですけど、風呂入りに行くのが好きでですね、銭湯を含めて。こちらは渋谷区なんだけども、渋谷区から稲城ぐらいまで行きますね。上は和光とかね。

――けっこうなレベルですよ、それ。

向井秀徳 これは電動力の勝利というか。スポーツサイクルとかじゃなくて、ただのバッテリーつきのヤツで。それで風呂に入ってきて。

――でも、帰りにまた汗かきますよね。

向井秀徳 夏はね。冬は完全に湯冷めする。だからお台場ももちろん行けるんだけど、あそこらへんは風呂がないから、行く当てがないですね。大田区あたりはふつうの銭湯に温泉がむっちゃ湧いててですね、そういうのは入りに行く。さらに言えば幹線道路とかをあんまり使わないですね、車がボンボン走ってるようなところは。そこをずっと行ったほうが早いんだけど、住宅地を通って行くのが好きです。中野区から杉並区に入って練馬区になって豊島区になったみたいな、区から区、もしくは住宅地でもムードが変わる瞬間があってですね、なるほどこういう場所にはこういう人たちが住んでるのか、こういうお家が並んでるっちゅうことはこれくらいの所得がある人たちが住んでるのか、家のサイズとか車とかはわかりやすいんだけど、そうじゃない空気が変わる瞬間があってですね、たぶん昔からそういう街、もしくは土地の培ってきた匂いみたいなヤツがまだあって、そういうのを感じるのがすごい好きなんです。

――所得の差を感じるのが(笑)。

向井秀徳 いや、所得の差はわかりやすいデータ的な違いであって(笑)。そこでどういう生活をこの人たちはしてるんだろうとか、そういうのを想像するのが好きなんですね。

――ミュージシャンってあんまりお金のことを言いたがらないイメージがあるんですけど、向井さんはナンバーガール再結成も稼ぐためと言ってみたりするタイプですよね。

向井秀徳 だからお金を稼ぐために音楽という道を選んでるのか、そういうことじゃなく、ただギターで発散したいとか、楽しくバンドで他のメンバーと合わせるのが気持ちいいからやってる、あくまで楽しみだから普段はバイトとか仕事しながら空いた時間にやるとか、いろんな形があると思いますよ。貧乏でも「仕事なんかする暇あるか! ずっと歌詞を書いてないとダメなんだ!」っていう人もいるだろうし、そういう人も知ってるし。じゃあ私がどういうタイプなのかというと、生活の手段として音楽の仕事があるっていうのは現時点でいうとそうなってるわけですよ。ずっと続けることができている、それはすごくありがたいなと思う。音楽活動だけで生活ができてるのは聴いてくれる人がいるからで、なぜ聴いてくれる人がいてくれるかといったら、こっちが本意気で真剣にマジで作ったり歌ったりライブしたりしてるからちゃんと聴いてくれるんだなという、順番でいったらそっちが先だと私は思ってます。適当にやってたらたぶん誰も聴いてくれなくなると思うから。もしくは自分がなんかもうギター弾くのつまらんなと思いながら、だけど事務所から続けろって言われてるし、アルバム出さないといけないと言われてるから、誰かにやらされてるとかね、だからやらなきゃいけないっていう人たちもいるんですよね、やっぱり。

――向井さんのモチベーションがそっちじゃないのは、路上で弾き語りしてることでもわかりますよね。金にならなくてもやる、と。

向井秀徳 そうですね、あれはまさに抑えきれないというか。この(MATSURI STUDIOの)地下室でひとりで歌ったりしてるんですね、曲を作ったり、『浅草キッド』を歌ってみたりね。『浅草キッド』のドラマを観て。

――それですっかり高まって。

向井秀徳 高まって(笑)。五合瓶を空けながらやってたら収まりきれんくなるわけですよ。

――誰にも歌を聴かせられずにいると。

向井秀徳 それじゃもの足らないんですよね、やっぱり。これが私の原理というか。誰かに聴いてもらいたいという欲求があってやってるんですね。寂しがりとかそういうことでもないんですけど。より深刻なコロナのパンデミックのときは、とにかくすべての活動、行動がストップして、これはわれわれのみならず全世界どんな人でもそうだったと思うけど。

――向井さんは特に直撃したわけですよね。

向井秀徳 直撃しました。あのときに自覚したのは、誰かに聴いてもらわなくてもずっと何かものを作り続けてそれだけで自分のなかにあるものを解消できるのかどうかっていったらまったくできないなと思って。真性の芸術家はべつに誰に見てもらわなくても誰に読まれなくてもいいんだ、ただ色を塗る、それだけでいい、みたいな。そういう人が全身芸術家だと思うんですけど、私は絶対そうではないと思って。なぜならそういう機会がないと、最初は空いた時間に詞とか書き溜めて、もしくは曲を作って、つまり制作にゆっくり集中できるんじゃないか、と。ライブ活動に追われながらじゃなくて腰をどっしりと落ち着けてやれるよなと思ったら、ギターを一切触る気にならなかったんですね。半年以上触ってなかった、埃かぶってたからね。つまりギター弾いてもその残響が虚しくなるだけ、鳴らす意味ない、みたいなことだったんでしょうね。だからまったく弾いてなかった。

――わかります。そういう意味でいうと、ボクも反響がないと仕事できないんですよ。

向井秀徳 ひと言でいえば自己顕示欲とも言えますし。私がよく思ってるのは、音楽をやることはひとつのコミュニケーションで、それはどんな反応であれ、こっちからしてみれば残念な反応なこともあるし、うれしくなるような反応もある、いずれにしてもそこで他者とつながることがしたいんだと思ってます。

――それにお金がついてくればラッキーで。

向井秀徳 ええ、こんなありがたいことはない。あと非常に重要なことは、特に女性ね、女性にうれしい反応をしていただきたい!

――そこはホントにこだわりますよね。

向井秀徳 ハハハハハハ! そうか、こだわってるね。これは永久問題かもしれないです。肉体的にモテたい、つまりは感情のモヤモヤを解消したい、下半身のモヤモヤを解消したいというストレートなことではないんですね。これはいまではですけど。もっと若いときはもうちょっとダイレクトにあったと思う、下のほうの欲求、欲望をギターのコードに換えて、「俺、もだえてます。わかるか?」みたいな。これはけっこう直接的につながっているんですけども、つながるはずなんですけども、特にロックンロールっつうのは。

――向井さんはまたそこを隠さないタイプじゃないですか。古くは、風俗嬢にフラれたことをそのまま曲にしたりしたぐらいで。

向井秀徳 それはまあ、わかりやすく言えば悔しいものなんですよ。悔しいというよりは切ないんですけど。この心の傷を自分で修復するために歌にしなければいけないんですよね。失恋の歌としてきれいにまとめることができれば、もっと売れたんでしょうけど。いくらキャバクラに行って寿司をなんぼ奢ったのにぜんぜんヤラしてくれない、これもある種の失恋なんですけど。それをきれいなストーリーに作り替えることができたらよかったんですけど、そういう才能はあんまりないですね。

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