佐々木チワワ氏が説く“歌舞伎町のリアル社会学”
ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第50回は、『歌舞伎町モラトリアム』の著者・佐々木チワワ氏が登場。新世代の書き手として、ホストの世界をフィールドワークし続ける彼女が説く“歌舞伎町のリアル社会学”。「思考停止」「消費する側に回りたかった」――ホストに狂うのにはワケがある。
彼女たちはホストクラブに何を求め ホストは何を売ってるのか?
大遊戯場でのリアル
――佐々木さんは、15歳のときに初めて歌舞伎町を訪れたと綴られています。
佐々木チワワ 毎年正月に親戚と会うのですが、それが苦手で行きたくなかったんですね(苦笑)。家に居たくないという似たような理由を持つ友達がいて、彼女が椎名林檎かぶれだったこともあり、歌舞伎町に行ってみようと。私が通っていた高校は、俗にいう“お堅い”学校だったので、周りの目が気になってしまう。でも、歌舞伎町に来ると、誰も私のことを気にしないし、いい意味で関係性が希薄でした。池袋や渋谷だと、同じ学校の人間に見つかるのですが、歌舞伎町に来る子なんていませんでしたから。
――そうした日々の中で、ホストと出会う。佐々木さんが、ホストの研究をしてみようと思ったきっかけもすさまじいです。
佐々木チワワ 高校時代は、塾帰りに歌舞伎町に立ち寄る程度だったのですが、18歳になったことで、ホストクラブに行けるようになりました。初めてホストクラブに通ってから6カ月後の2018年10月に、歌舞伎町で自殺の名所として有名な雑居ビル「T」を訪れたんですね。そこでたまたま、女性が屋上から飛び降りようとしている現場に遭遇しました。私は友人と、飛び降りようとしている彼女が熱を上げていたホストと一緒になんとか止めたのですが、女性は「お金を使わないと私に生きている価値はない」と泣きながら話していて。その経験が衝撃的で、歌舞伎町やホストについて、より深く考察してみたいと思うようになりました。
――本書は、佐々木さんが実際にホストクラブや歌舞伎町に通って体験したリアルが、22歳の女性の言葉と目線で綴られています。前作『「ぴえん」という病SNS世代の消費と承認』とは異なる切り口で、ホストの生態学、ホス狂いの悲喜こもごもが伝わってきます。
佐々木チワワ Twitterなどを見ていると、自分が言葉にできなかった感情を言語化してくれてうれしかったといったコメントを女の子からもらうことが多いので、とてもうれしいです。ホストにハマるといっても、シンプルに顔がタイプだったり、そのホストを応援したかったり、飲み相手として気に入ったり、いろいろなハマり方があります。私にはこのホストしかいない――そうのめり込んで、信者的に通っている子もいる。それぞれ何を求めているかも違っていて、夜の仕事で稼いでいる30歳の女性は、「今日は飲む気分じゃなかったから、(キャッシャーに)お金だけ置いて帰ってきた」と言っていました。「いくら?」と聞くと、その子は「150万」って言うんです。「は!?」ですよね(笑)。
――意味が分からないです(笑)。
佐々木チワワ その店の飲み代としてではなく、彼女は担当ホストへの価値としてお金を払っている……けれど、ただ150万円を置いていくだけというのは理解に苦しむので、「ホストクラブに何を求めているの?」と聞いたら、彼女は「思考停止」って一言だけ。その言葉が重いというか刺さりましたね。
――「麻痺している」は聞いたことがあるけど「思考停止」ですか……。『歌舞伎町モラトリアム』は、佐々木さんの歌舞伎町フィールドワークによる説話集的な側面もあります。ホストクラブに通うようになって4年が経ちますが、ホストの“見え方”に変化などは生じましたか?
佐々木チワワ 見え方も見られ方も変わったなって思いますね。4年前は、誰も私のことを知らなかった。でも、今は顔が割れるようになってしまって(笑)。初めて行ったホストクラブで、「佐々木チワワは飲み方が汚かった」とか言われたくないから、おしとやかに飲んだりしています。サラリーマンが出張先のすすきのとか中州で、羽を広げる気持ちがめっちゃわかりますね。私も、旅先のホストクラブに行くようになりました。
――ははははは! 歌舞伎町と違って、「ここはまだ私のことを知らない」という。
佐々木チワワ それこそ昔だったら、ホストの“営業の言葉”しか聞けなかったのが、仕事で関わりを持つようになったり、信頼関係が生まれたりしたことで、ホストの本音を聞く機会も増えました。ここ4年で、歌舞伎町の深いところまで入り込んだため、同じ歌舞伎町の住民として連帯意識も持つようになったと思います。
――地方のホストクラブと歌舞伎町のホストクラブって、やっぱり違うものなんですか?
佐々木チワワ 歌舞伎町には、ホストクラブが約300店舗あります(22年12月末時点)。その次に多いのが、大阪のミナミで約170店舗。一気に半減してしまう。また、地域料金というものがあるのですが、歌舞伎町は100万円のお酒を卸した場合、どのお店でも一律38%という暴利なサービス料が上乗せされた挙句、消費税10%がかかります。つまり、10万円のシャンパンを入れると、会計は約15万円になる。でも、地方に行くとサービス料が安いなど地域差があるんですね。
――38%……それが成立する歌舞伎町って、やっぱり聖地なんですね。
佐々木チワワ ところが、最近は歌舞伎町の大手ホストグループが地方に進出するようになって、38%という歌舞伎町のサービス料を適用するお店も増え始めています。グループ傘下ですから、同じ価格帯にするわけですね。アイドルのライブチケット代が、東京でも札幌でも変わらないのと同じというか。統一されることで、結果的にホストクラブの地域性が失われているからこそ、歌舞伎町のブランド性が高まっているところがあると思いますね。
――なるほど。佐々木さんは、SNSやYouTubeが台頭し、ホストクラブとの距離感が近くなっている点も指摘しています。
佐々木チワワ 圧倒的にホストを知る機会が増えましたよね。かつてはホストクラブに行きたくて、わざわざ探して見つけるものだったけど、今はYouTubeやTikTokで目にしたかっこいい人がたまたまホストだった、なんてことも珍しくないです。しかも、すぐ会いに行ける。もともと推し活をしていた人からすれば、画面の向こうにいた人が隣に座って接客してくれるわけですから、沼る人は沼ります。ホストがアイドル化したことで、気軽にホスクラに行く子も増えました。初回であれば数千円でホストに会える……入り口を安い価格に設定したことも、市場が拡大した大きな要因でもあるのですが、一方で初回しか行かない“初回荒らし”も出てきた。
――軽い気持ちで会いに行ったはいいものの、営業の言葉を聞いてハマってしまう人も多いんでしょうね。
佐々木チワワ 「お前と居すぎて売り上げが10万円下がった」なんて言われたら、「助けなきゃ!」ってなる。私は、「お前のことが大事だから」とか言われても、「だったら論理的根拠を示せよ」って思ってしまうような性格だから貢ぐ気になれないんですけど(笑)。「あなたのホスト狂いってどこから?」って聞くと、バンギャとかアイドルオタとかいろいろな沼からみんな集まっている。ただ、そういう子たちのホストへのヲタ活を目の当たりにすると、どうなんだろうという気持ちもわいてくるんです。オタクって、偶像崇拝を消費するじゃないですか? それって遠くからやっている分にはいいんだけど、近くでやってしまうと、すごいグロテスクだと思うんですよ。
――興味深いインタビューの続きは発売中の「BUBKA2月号」で
取材・文=我妻弘崇
佐々木チワワ=ささき・ちわわ|2000年生まれ。慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチをもとに「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。2022年1月に発売された『「ぴえん」という病』は発売すぐに重版がかかる人気ぶり。
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