2022-07-03 20:10

高橋源一郎『失われたTOKIOを求めて』魔改造されゆく渋谷

「BUBKA8月号」表紙を飾る櫻坂46二期生14人
「BUBKA8月号」表紙を飾る櫻坂46二期生14人

――『失われたTOKIOを求めて』を読むと、同じ場所でもさまざまなレイヤーがあって、螺旋構造のようになっていることがわかります。国立競技場が、かつて戦場に赴く学徒たちが集った集会の場であり、月日が流れ、オリンピックが行われた、など。

高橋源一郎 渋谷なんかもすごいですよね。「渋谷スクランブルスクエア」の屋上、地上229メートルまで上ってみて驚いたのは、はるか上から見ると、意外に東京は緑が多くて、ずっと続いているということです。でも、その緑は皇居だったり、赤坂御所だったり、皇室の持ち物が多いってわかる。その緑をさらに辿っていくと、東大駒場や松濤とか、やっぱり権力というか日本の中枢につながっている。

――権力によって緑が保たれている(笑)。

高橋源一郎 上から見ないとわからないけど、ホントにそうなんですよね。物理的には単純なことなんですが、道を歩いていると大体二面しかありません。表面と裏面です。だから、道を歩くと片面しか目に入らない。人間の意識って面白くて、片面で見ると見た気になって「見た」ってことになってしまいます。もう半分の面は、意識しないと見ることができない。おまけに上から見ると、また違うものまで見えてくる。自分の中では「見たはず」になっているから、逆回りのように違う視点で見ると脳内でバグを起こすんですよ。僕が鎌倉で迷ってしまったのはそういうことなんだろうなって。記憶の中にも、時間軸と表面裏面の水平面……双方の座標が存在している。その縦軸と横軸を意識して見ると面白いですよ。

――そもそも高橋さんの“東京観って、どのようなものなのでしょう? もちろん、昔と今では感じ方も違うと思うのですが。

高橋源一郎 やっぱり僕にとっては文化がある場所です。それこそ新宿とか。中高生の頃は、世田谷区の千歳船橋に住んでいたから、ターミナルである渋谷に立ち寄ることもあったんですけれど、大学生になると政治的な雰囲気の新宿に吸い寄せられた。

――60年代、70年代は政治の時代ですから新宿が文化の中心だったと思うのですが、80年代になると消費の時代になって、中心が渋谷に変わります。それって、高橋さんにはどう映っていたんですか?

高橋源一郎 時代の重心が変わったんだなって思います。新宿、あまりおもしろくなくなったもん(笑)。政治の時代だった頃の新宿は、DUGとか花園神社とか紀伊国屋とか行くところに困らなかったけど、今はどこに行ったらいいのわからない。今は、毎週NHK(『高橋源一郎の飛ぶ教室』)の収録があるから渋谷に行っているということもあって、渋谷の方に馴染みの場所が多くなっちゃいました。70年代に東京を舞台にした文化的な映画を作るとなると新宿になったんですよね。でも、80年代を経て、90年代になると『蛇にピアス』とか『ラブ&ポップ』とか渋谷を舞台にした作品が多くなる。書籍の方の『蛇にピアス』には、一度も渋谷という言葉は登場していなくて、作者の金原ひとみさんに尋ねたことがあるんですよ。彼女は、「特に(場所は)決めていなかった」というんだけど、映画版では“生々しい感じ”を求めて渋谷になったらしいですね。文化の重心の変動って、映画を見ているとわかりやすくて、かつてATGは新宿にあった。ところが、かつて渋谷にアップリンクなんかがあった。マイナーな映画や映画館があるところが、文化的中心なんですよね。

Twitterでシェア

関連記事

MAGAZINE&BOOKS

BUBKA2025年5月号

BUBKA 2025年5月号

BUBKA RANKING11:30更新

  1. 坂元誉梨の『初心者バイク女子の奮闘日記』#27「タイヤを替えたら、雨に降られた話」
  2. 坂元誉梨の『初心者バイク女子の奮闘日記』#13「プロにおまかせしてきました」
  3. 宮戸優光「前田さんとの関係が、第三者の焚きつけのようなかたちで壊されてしまったのは、悲しいことですよ」【UWF】
  4. “裏センター”の可憐なパフォーマンスにくぎづけ…完璧なゴールとアシストを決めた乃木坂46・池田瑛紗さん
  5. 日向坂46高瀬愛奈×富田鈴花、先輩後輩を超えた“ 推し”対談【BUBKA12月号】
  6. 乃木坂46ドームツアー考察”2年連続座長”のエース・井上和の涙から感じた「乃木坂46らしさ」とは?
  7. 【吉田豪インタビュー】井上富雄、過去のものはそんなに引っ張らないでいきたい
  8. 坂元誉梨の『初心者バイク女子の奮闘日記』#25「バイクは運動ですか?」
  9. 「ひらがなけやき」から日向坂46へ、約10年のルーツが詰まった「ひな誕祭」にOG大集結!長濱ねるの「心残り」を晴らした横浜の空
  10. 坂元誉梨の『初心者バイク女子の奮闘日記』#26「初めてのお別れ」
  1. 日向坂46藤嶌果歩、“上京する女の子”設定に「実は結構泣きそうだったんです」
  2. 【SASUKEアイドル予選会】出場者12人&応援メンバー12人決定
  3. 櫻坂46『12th Single BACKS LIVE!!』完遂!2度目のBACKSセンター・石森璃花「本当に終わりたくない、楽しいライブでした」
  4. WHITE SCORPION『リアルBeach opening』イベントをビーチをバックに開催
  5. 櫻坂46の「小さな巨人」森田ひかるが24歳に──グループのシングル最多センターに立った彼女のコンプレックスを武器に変えた「客観力」
  6. 櫻坂46森田ひかる、夜の東京を舞台にしたドラマチックなグラビア
  7. 日向坂46 松田好花、ついに蕎麦案件で「放送局占拠」! 櫻井翔の度肝を抜いた蕎麦打ちショーに有吉弘行も「みんな粉吸っちゃうよ?」
  8. 乃木坂46弓木奈於&中西アルノ、デビュー当時のライブでのほろ苦い思い出を告白
  9. 「寿司百貫」「一人時間差」大食いマイペース要素がさながら「“ひとり”からあげ姉妹」!?乃木坂46の「新天然素材」増田三莉音の魅力
  10. AKB48新曲タイトルが『Oh my pumpkin!』に決定!OGメンバーも集まったアー写&ジャケ写も公開