2022-06-05 06:00

なんてったってキヨハラ第22回「ラストブルー」

周囲が騒がしくなる中、長年住んだ田無から国分寺に引っ越し、心機一転臨んだ11年目のシーズン。背番号3は4月10日の日本ハム戦で西崎幸広から通算300号アーチを放つ。28歳での達成は王貞治に次いで史上2番目のスピード記録だった。6月2日の近鉄戦ではサヨナラ弾をかっ飛ばし、4時間ゲームが続いた1週間を振り返り「記者さんも疲れたやろ。やってる方はもっと疲れるで」なんてニヤリ。しかし、東尾政権2年目のチームは序盤から低迷。名将・森監督は去り、全然関係ないけど森君もSMAPから脱退。すでに黄金時代の主力選手たちはほとんどいなくなり、抜け殻のように虚ろな眠れる獅子は最下位で前半戦を終えた。仰木監督による「投手イチロー登板」(それに不快感を露わにした全セ野村監督は松井秀喜に代えて「代打高津」をコール)が物議を醸したオールスター第2戦で、キヨマーは満塁走者一掃の勝ち越し2塁打を放ち自身5度目のMVP獲得。7年連続四番打者でのフル出場は球宴新記録でもあった。

その頃、盟友でありライバルの桑田真澄は右ヒジ手術後のリハビリに励んでいた。今しかできないことをやろうとサイモン&ガーファンクルの曲をピアノで弾き、ボクシングの世界タイトルマッチ観戦に出かけ、テニスの女子世界ランキング1位のアニータ……じゃなくてモニカ・セレシュとは流暢な英語で会話した。6月9日には291日ぶりにブルペン入り。50人の報道陣が見守るなか、捕手を立たせたまま20球を投げ、「ボクは普通の結婚もしていますが、野球とも結婚しているんです。ようやくマウンドという女房に会えた感じですね」なんつって1秒も笑えないマスミギャグも華麗に復活。画数が多い方がリハビリになると、アルファベットのサインを漢字に変え、ジャイアンツ球場の外野フェンス沿いを毎回きっちり50分間走る。投手が1試合でマウンドに立っている時間が約50分なので、投げているときの心拍数125~135を維持してランニングをするわけだ。9月復帰報道もあったが、シーズンを通して1試合も投げることなく焦らずリハビリに費やした。周りがどう言おうと俺は俺の道を行く。この10年間、12球団で最もイニング数を投げた男が突き進む桑田ロードだ。

――記事の続きは発売中の「BUBKA7月号」で!

文/中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)

中溝康隆=なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)、『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』(新潮新書)、『プロ野球新世紀末ブルース 平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中。

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