R-指定(Creepy Nuts)、“R流”楽曲制作のロジックと計算式
――なるほど。パズルをちゃんと決めることで、曲としての強度を上げていくというか。
R-指定 最近はCreepy Nutsの楽曲でも、1ヴァース目と2ヴァース目の同じ箇所が同じフロウになっている曲なんかは、よりパズル的になるし。基本的に俺はパズル的に作ることが多いと思いますね。パズルと言っても、さすがに頭とケツが全く入れ替わったり、順番を完全に再構成していくようなことはなくて、なんとなくテーマに沿ってリリックの出発地点と着地点を決めておいて、その間のフロウの流れとかを考えながら、「この言葉やっぱり上の方が良いかな」「これは後で出てくるほうが良いかな」みたいなぐらいの入れ替えではありますけどね。逆に、もうちょっとヴァース単体の腕力というか、リリックの威力だけで持っていくような曲、時代性があんまり関係ない楽曲を作るときの方が、頭からケツまで一気に持っていくことが多いですね。
――オーセンティックだったり、タイムレスなものほど、直球で作るというか。それもリスナーとしては逆だと想像しがちな部分かも知れないね。
R-指定 何の展開もない、ワンループで組み上がったビートを渡される方が、もしかしたら一筆書きになっていったりするのかなみたいな。それか、最初にフロウを決める段階のスキャットというか、音感だったり構造をまず一筆書きで作って、2ヴァース目ではその一筆書きで書いたフロウをなぞるために、中身の言葉を入れ替えたりする場合もありますね。
――なるほどね。DABOさんとの会話の中で「リリックのコスパ」という話が出たんだけど、「一筆書きで書く」「パズルで書く」のどちらがコスパがいいかは、本当にケースバイケースというか。
R-指定 そう。一筆書きのほうがコスパ良いかっていうと、それは微妙なとこなんですよ(笑)。先にパズルが決まっちゃったほうが、構成やゴールが決まってるから楽な場合もあるし、逆に「自由形で泳ぎきってください」っていう方が、それはそれで大変なパターンもあるんで。
――確かに、ギャラが安くて文字数が多い原稿でも、楽しくて一気に書ければコスパは悪くないし、ギャラが良くて文字数が少ないからと言って、超制約が厳しくて何度もリライトさせられれば、コスパは悪い。そう考えると、クリエイションとコスパは難しい話だね。
R-指定 そうそう。コスパを良くしようとして、情報を削ぎすぎて内容がなくなれば、自分の持ち味は出ないし。
――リスナーもがっかりするし、仕事もなくなるだろうしね(笑)。
R-指定 でも情報が多ければ良いわけじゃないから、そこはバランスを見極めないといけないし、情報を削ぐにしても、ちゃんと強度を保った削ぎ方をしないといけない。