プロ野球界において、「落合博満」こそ、最高のエンタメだ。〈ノーカット版〉
前編
伊賀大介(スタイリスト)×中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)
取材・文/高目満貫
話題沸騰のノンフィクション!! 『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』について語る“BUBKA不動の二遊間”対談全文を公開!!
BUBKA野球企画において「不動の二遊間」的存在である、伊賀大介と中溝康隆が、「名選手、必ずしも名監督にあらず」が定説となっている球界で、在任期間中は全てAクラス、リーグ優勝4回に導いた稀代の名将・落合博満をテーマにした今話題の書について語り尽くした。この対談で惜しくもBUBKA1月号で掲載されなかった部分を含む、“完全ノーカット版”をBUBKA WEBで公開する。
今話題の落合書籍
――今回の座談会テーマは、文藝春秋から発売された『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』についてなのですが、何の因果か取材日の今夜は「セ・リーグ クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第三戦」が行われていて、今まさにジャイアンツの2021年が終わろうとしていますね……。
中溝 (最後の打者、中田翔が空振り三振に倒れるのを見て)成すすべもなく、3試合で終わりましたね。9月頭の座談会の頃(BUBKA11月号)はなんだかんだ巨人が優勝するだろうって空気だったのに。そこから、10連敗もあって、首位ヤクルトと11ゲーム差の3位。
――原辰徳監督の「わっしょいベースボール宣言」もあり、電撃加入の中田翔もなんだかんだ期待されていたので、後半戦開始時はジャイアンツの3連覇にかなり追い風が吹いていたんですけどね。
中溝 まあ、『BUBKA』の発売日(9月30日)にはすでに、座談会で激推ししていた(スコット・)ハイネマンの帰国が発表されて、Twitterで「中溝、何言ってんだ」ってなってましたけど(笑)。
伊賀 9.24、阪神戦の6対6がターニングポイントだったっすね。3点先制されてから、岡本(和真)と丸(佳浩)がホームラン打って、一気に5点とって逆転して。最後に (チアゴ・)ビエイラが打たれて、引き分けだった試合。
中溝 最終回、代走の増田(大輝)がスタート遅れたやつですね。
伊賀 そうそう。
中溝 今年の巨人は、流石にこれは勝ったろっていう試合で、ひっくり返されちゃったり、追いつかれたりが多かったですよね。そうこうしているうちに投手陣がどんどん疲れちゃって、10月の頭に神宮でヤクルトに3連敗したときに、俺ははっきりと「ああ、もう終戦だな」って思いました。俺の周りの巨人ファンも、最後はちょっと冷めてましたね。熱烈G党の人でも試合の日に「映画館で『デューン(砂の惑星)』観てきます」とか、そんな感じでしたもん。
――今日の座談会のテーマである『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』の中でも、「勝つことが最大のファンサービス」という落合博満の信条と、その考え方を土台としたチーム作りについて様々な角度から書かれていましたが、どんな熱心なファンでも、自軍が勝たないと盛り上がりに欠けるものなんでしょうね。
中溝 結局、ファンが求めてるのって勝つことですよね。おそらく今年、巨人が優勝してたら、タツノリのマシンガン継投(※1)は名采配だったってことになると思うんで。だから落合のあのロジックはある意味正しかったんだと思います。
伊賀 落合はそこに「選手は個人事業主」「勝たねえと金入ってこねえぞ」みたいな、考えが加わる。
中溝 去年、タツノリが選手をトレードに出すときに、「個人事業主」っていう言葉を使ってました。
伊賀 言ってましたね。
中溝 今回の第三次政権は、タツノリの落合化を感じます。第一次政権、第二次政権では、タツノリと落合のイデオロギー抗争だったのに。
伊賀 そうっすね。原に対する落合の「見くびるなよ」(※2)って発言もあった。
中溝 第2回WBCでタツノリが優勝監督になった2009年ですね。
――中溝さんの言う「タツノリの落合化」はよくわかります。『嫌われた監督』を読んで思ったのは、色々なタイプの監督がいると思うんですけど、いちばん落合博満に近いのって今の原辰徳だと思うんですよ。チームの看板役者である立浪(和義)を容赦なく切ったり、大黒柱の谷繁(元信)でも試合途中に交代させるとか、そういう采配ができるのって、少なくとも現代では原辰徳しかいない気がして。
伊賀 リアリストっすよね。中島(聡)とか高津(臣吾)とか、基本的にはみんなフレンドリー系の監督じゃないですか。星野仙一なんて、青年監督だった時代ですら、お兄ちゃんが殴る感じで選手をぶん殴ってたのに。今の監督は年が近い学校の先生みたいな感じというか。まあ矢野(燿大)は先生とはちょっと違うけど。矢野は「金八」が入っちゃってるから(笑)。
中溝 たしかに (笑)。タツノリも第一次政権は兄ちゃんって感じでしたよ。今は恐怖政治で支配する首領っていうか。
伊賀 ファシズム化(笑)。やっぱりダース・ベイダー(※3)っすよね。
中溝 でも、結局ダース・ベイダーじゃファンの支持は得られないんですよ。だから、あのスタイルである程度のファン層を獲得した落合はすごいです。
――原監督も厳しいですが、落合の勝負に対する厳しさは一枚上手な感じがします。だからこそ支持を得られたんでしょうね。
中溝 俺は80年代からタツノリのビックベイビーなんで、タツノリより全然成績が良くて、タツノリを馬鹿にしたような発言も結構する落合には複雑な気持ちもあったんですよ。でも、嫌いではなかった。FAが解禁されたときも、落合のために原がいろいろ駆けずり回ったんだけど、結果的に落合によって原のポジションが奪われるみたいな因縁もあって。落合はある意味、巨人の4番・原辰徳を殺した男なんですけど、でも嫌いじゃないっていう、なんか不思議な感じが落合にはありますね。
――たしかに中溝さんクラスのタツノリファン、巨人ファンなら、当然のように落合を目の敵にしていてもおかしくないはずなんですけどね。
中溝 岡田彰布の本にも、オールスターで原・落合・岡田の3人になったときに、落合が原に対して、嫌みをネチネチ言い続けて、タツノリが「なんで落合さんって俺に対してあんなこと言うんですかね」って岡田に愚痴って、「そんなん知らんがな」って返したという話が書いてあって。
――落合らしいっちゃらしいですが、普通にひどいですね(笑)。
中溝 でも、逆に落合からしたら、これだけ実績に差があるのに、なんで原はこんなに世間で人気があるんだっていう気持ちがあるんでしょうね。
伊賀 原は自分が憧れたジャイアンツの嫡子、正統後継者っすもんね。
中溝 その嫉妬を感じさせるのがまた落合っぽいですよね。
伊賀 ある種、長嶋と野村に続く関係性。
――「長嶋は向日葵、俺は月見草」ですね。
中溝 平成までそれを続けたのが落合なんです。
マシンガン継投(※1)
2021年6月8日、原監督は京セラD大阪で行われたオリックス戦で9投手を起用。9イニングでは球団新記録。このような超小刻みな継投を称してマシンガン継投と言われた。
「見くびるなよ」(※2)
2009年9月、巨人の優勝を目前で見た中日落合博満監督が原巨人に対してクライマックスシリーズでの雪辱を誓ったときに言った言葉。
ダース・ベイダー(※3)
ご存知、アメリカのSF映画『スターウォーズ』に登場する代表的なアンチヒーロー。ここでは、恐怖の体現者として、抵抗を試みる勢力に対する脅威を与える存在としての比喩。